万延元年(1860)に江戸の版元・延寿堂(Enzyudo)から発売された、『おばけかるた』に書かれたふだの文句を一覧表にしたものです。この延寿堂の『おばけかるた』は一紙にそのまま、読みふだ絵ふだがいろは順に印刷されていて、買ったあとに一枚一枚を切りはずして遊ばれたもののようです。
「ひょうばん」の項目はただの備考です。金松堂のかるたともご比較ください。
よみふだ | これかな | ひょうばん |
いどからでるさらやしき | お菊 | お皿を持っていちまいにまい |
ろくろくび | 轆轤首 | 一ッ目な娘さん |
はさみむしのをばけ | 鋏虫のおばけ | 虫シリーズ |
にんめんそう | 人面瘡 | ひざに顔がでる |
ほん所をの をいてけぼり | 置行堀 | 本所七ふしぎのひとつ河童が正体 |
へいけがに | 平家蟹 | 源家にうらみはかにかにござる |
とうふ子ぞう | 豆腐小僧 | 目玉は一ッ |
ちのいけぢごく | 血の池 | 地獄の責め苦のひとつなり南無 |
りすのをばけ | 栗鼠のおばけ | 鼠シリーズ |
ぬれぼとけ | ぬれ仏 | 仏像のおばけ |
るすにでるたぬき | 狸 | かちかち山の狸かしらん |
をんなのいちねん | 幽霊 | 蚊帳に向かってどろどろと出てる姿 |
わら人形のばけたの | 藁人形のおばけ | 目の玉がひとつギョロ |
かさね | 累 | ミセスかさねでございまする |
よたかのばけたの | 夜鷹のおばけ | 安物買いの鼻うしない |
たこの入道 | 蛸入道 | 扇でぱたぱた |
れん木の はねのはいたの | 羽の生えた擂木 | 擂木鳥だよ |
そそこぬけびしゃく | 船幽霊 | 底をぬいたひしゃくを渡そう |
つちぐもをばけ | 土蜘蛛 | 目の玉が三ッ |
ねやのをばけ | 枕のおばけ | 枕に目が生えてる |
なまづのをばけ | 鯰のおばけ | 着物きてる |
らんまからでる ほそい手 | 手 | ながい腕だよ |
むらのばけぢぞう | 化地蔵 | 稲叢が描き込んである辺りが在所 |
うぶめ | 産女 | 泣いてる姿の絵 |
ゐのなかの かわづのをばけ | 蛙のおばけ | わたしゃへそ無しうみしらず |
のなかの一ッ家 | 一ッ家 | これから石を落としてグシャリ |
おいはのぼうこん | お岩 | ミセスお岩でございまする提灯つき |
くわなのうみぼうづ | 海坊主 | 桑名ということは桑名屋徳蔵のおはなし |
やねの上のゆうれい | 幽霊 | 後ろ姿で屋根の上 |
まむしをばけ | 蝮のおばけ | キバの白歯がぎらりんこ |
げんべぼり | 河童 | 本所の源兵衛堀の河童 |
ぶらり火のくわいだん | ぶらり火 | 鳥は居ぬので「ふらり火」の縁故で無い |
こはだこへいぢ | 小幡小平次 | 蚊帳は「を」で使っちゃったので無し |
えん朝のくわいだん | (三遊亭円朝) | どのお話かは不詳 |
てうちんこぞう | 提灯小僧 | 提灯に手足が生えてるおばけ |
ああらあやしい 鼠のをばけ | 鼠のおばけ | あたまの黒い鼠でござる |
さんばのをばけ | 剣烏帽子のおばけ | 三番叟がかぶる剣烏帽子のばけたの |
きりかぶろ | 切禿のおばけ | やや佐藤有文の「大禿」風味の絵 |
ゆきおんな | 雪女 | かんざしがいっぱいあるので吉原の八朔姿 |
めくらいちねん | 座頭のおばけ | 何のお芝居かは不明 |
みこし入道 | 見越入道 | 鉄棒もって格子の着物 |
しぼりのゆかた | 化猫 | 絞の浴衣で来るものかオッチョコチョイノチョイ |
ゑのくま | 猪熊 | しころを噛んでる凧の絵にもある形 |
ひとつめこぞう | 一ッ目小僧 | お茶どうぞの姿 |
ももんがあ | ももんがあ | 手をだらりと下げてる |
せどからでるおばけ | 背戸から出るおばけ | 畑の景色なので背戸の畑でありましょう |
すごいなまくび | 生首 | これはすごいすごい |
京とのくらまやま | 天狗 | 鞍馬山だから僧正坊かしら |
鬼質時代上では後絵本紀しゅもく世(Upper Ehon period/Shumokuan)に位置している資料で、 「お菊」(い)や「小平次」(こ)など、院本紀(Maruhon period)以後の発達によってよく知られるようになっていた幽霊たちが採用されているいっぽう、「栗鼠のおばけ」(り)や「剣烏帽子のおばけ」(さ)などといった妖怪たちに、しゅもく世(Shumokuan)独特の幅広い画像妖怪の発達状況が色濃くうかがえます。