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やなり

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

やなり

鳴屋・家鳴・舎響

「やなり」は、呼び名のみが絵に添えられています。目録には「やなり」の名前が記されていません。

まえへつぎへ

■大勢で家を揺らすぞ

家をみしみしと鳴らすような音をさせる「やなり」を、石燕は背のちいさい鬼のようなかたちの妖怪たちで描いています。「やなり」たちは家の戸や柱をちからをこめて揺り動かしており、その結果として家がみしみしと震動させているようです。

割竹[わりだけ]や小鎚[こづち]のようなもので叩いて、音を立ててもいる様子で、それらの小道具も「やなり」たちが手に持っていたり、足元に落としていたりの描写が見られます。

「やなり」たちの形状は個々それぞれに別々のデザインの鬼形で描かれていて、脚絆[きゃはん]や虎・豹の皮を腰につけているもの・つけていないものもそれぞれにいますし、縁[えん]の下から家を揺すろうとしている「やなり」は三ッ目の小鬼のようなかたちで描かれています。

■びっしゃりがったり家鳴震動

「やなり」は、家が突然みしみし音を立てる現象で、版本やお芝居でも妖怪変化が当然のように発生させるなどして、かなりの頻度で登場しますから、特に説明がなくても自然とわかる画題ではあります。

「外は風が吹かねども 家鳴りて上は木霊[こだま]のひびきとで」(説教節『山椒大夫』)

「ふしぎや家鳴りしんどうして」(『傾城二河白道』)
「輾[こけ]つ転[まろ]びつ迯[にげ]ちれば俄[にはか]に家鳴震動し」(『平家女護島』)
「障子しきねの家鳴の音」(『曽我五人兄弟』)
「アレどろどろと家鳴がするは百物語の不思議か」(『本朝廿四孝』)
「化生屋敷と人毎に いひしに違はず家鳴震動」(『那須与市西海硯』)
「俄に家鳴り雲暗く立木も草も動揺し」(『津国女夫池』)
「道満が封じ置まじなひの其しるし 家鳴しきりにどろどろどろゆさゆさゆさ」(『弘徽殿鵜羽産家』)

「俄[にはか]に家鳴りし風すさまじく吹きおちて」(『御伽百物語』巻6)
「家鳴も鎮まり東雲[しののめ]もたなびきければ」(『金玉ねぢぶくさ』巻7)
「其の後は家鳴震動もやみて何の事もなかりければ」(『太平百物語』巻5)
「何の事もない座敷を家鳴がすると言出し」(『世間娘気質』巻4)

「やなりしんどう」(家鳴震動)という文句が使われることは非常に多く見られます。「震動」ということばとの組み合わせは非常によくあるもので、「しんどうらいでん」(震動雷電)ということばも、お芝居のなかで似たような使われ方をされることばです。

(2026.06.16)――
高田宗賢『徒然草大全』(1677)にある『徒然草』235段の註(巻下6・百)には「こだま」にあたる語として「やまびこ」と共に、室内でのものとして「やなり」についても混ぜて述べており「惣じて其形なくて声をなす響[ひびき]を云也 化生の妖怪[ようくはい]といひてもくるしからず 家にては空堂[くうどう]などの 人のすまぬ所に やなりと俗にいふ響[ひびき]あるをいふ也」とあります。

■漢語な書き順

見出しで「やなり」の用字は「鳴屋」となっていて、普通に浄瑠璃や版本などで用いられている「家鳴」というそのままな語順ではなく、「めい・おく」と漢文な語順になっているのが特徴です。

いっぽう、キチンとした「やなり」を示す漢語というのは「舎響」などのようで『書言字考節用集』(巻1・乾坤門上)にはソチラがあり、「鳴屋」の記載は見られません。

■家鳴を家鳴として絵に描くことは

お芝居などでも「やなり」ということばは非常に多用されてはいますが、独自に画像要素がつけられることはほとんどなく、石燕が描いているような描写が用いられることはほとんどありません。

いっぽう、妖怪を個別にデザインして並べている絵巻物のなかでは、狩野家の平均的な絵巻物に描かれていることはないものの、一部の異なる系統には「やなり」を個別に描いているものがあります。そこで描かれている「やなり」たちは「はたき」などを持って家の梁[はり]や長押[なげし]のような上を駈けまわっているようなデザインで描かれており、前後関係はハッキリしないものの、石燕の描いているような「やなり」と近い発想のものが確認出来ます。

▼鳴屋
「やなり」と、見ひらきでいっしょに描かれている「うぶめ」とは「よく知られている妖怪」ぐらいの対として並べられているぐらいしか深い共通点はうかがえません。両方を絵巻物から採っているとすれば、絵巻物にも描かれている有名な妖怪という組み合わせにもなります。


up.2026.06.14

■鳴屋…
■家鳴…御伽百物語
■舎響…書言字考節用集




▼脚絆…割竹で戸を叩いている「やなり」と、縁の下の三ッ目の「やなり」が足に脚絆をつけているが、模様は別のものをつけているぞ
▼虎・豹の皮…鬼神や獄卒たちが腰によくまいているものぢゃ。結果としてそれらの画像要素を受けて形成された「おに」たちもよく腰につけているぞ
▼びっしゃりがったり…浄瑠璃の『河内国姥火』(1713)での「やなり」が発生したときの擬音表現。◆『河内国姥火』曰「びっしゃりぐわったり家鳴震動」
▼震動雷電…◆『いぶき山』曰「ふしぎや天 にはかにかきくもり しんどうらいでんしきりにて」
▼空堂…誰もいないような部屋。『百物語評判』(巻1)の「こだま」(やまびこ)の項に出て来る「山谷あるひは堂塔などにて人の声に応じて響く物を申せり」という描写とも重なる部分があるぞ
▼「しらちご」を僧侶のすがたの大きな獣(大坊主)と共に小さい白い獣の妖怪として描いている異なる系統の妖怪絵巻には、小さな鬼形の「やなり」が描かれているぞ。石燕との前後関係はわからぬが、参照しているとすれば、この系統のものも考えられるところではあるぞ。