高女
「たかおんな」は、呼び名のみが絵に添えられています。
まえへ|つぎへ石燕は、腰からしたがものすごく長くのびた背のとんでもなく高い、女のひとの妖怪として「たかおんな」を描いています。髪型はざんばら髪のままで、長い黒髪を特に結ってはいません。わらっているような口のなかに見える歯は、鉄漿[おはぐろ]にしています。
「たかおんな」は梯子段[はしごだん]のかかっている階下から、上の階に向かって体をのばしていて、天井にある照明の八間[はっけん]の火皿よりも高い背丈になっていることが描写されています。上の階の廊下には上草履[うわぞうり]が脱ぎ散らかしてあるのが見られるので、舞台設定が妓楼[じょろうや]であることはうかがえます。
部屋の入口には青海波[せいがいは]の模様のある暖簾[のれん]が掛けられています。暖簾で隠れているので形状はハッキリしませんが、行灯[あんどん]が置いてあることは、底に置いてある油瓶などの存在から確認出来ます。
『太平百物語』(巻4)の「三郎兵衛が先妻ゆうれいとなり来りし事」には、再婚の祝言の宴席の様子をずーっと座敷の縁側[えんがわ]から病死した先妻の幽霊がのぞき込んでいて、その後、三郎兵衛と後妻に対し、自分の遺言どおりしあわせに暮らしてくれと伝えて来た――というはなしがあります。
同書に挿絵として描かれている先妻の幽霊は、腰からしたがものすごくのびて背を高くして、障子[しょうじ]の上にある欄間[らんま]とのあいだの窓から祝言の席をのぞきこんでいる――というかたちで描かれています。
にょーっと背が高くのびている腰からしたは、幽霊であるため先端が消えて足先がなくなっていますが、「たかおんな」の構造とは「絵」としてはおなじようなスタイルです。
本文には特に背が「のびている」ことは出ておらず、内容の側にも繋がる要素はないわけですが、『太平百物語』の挿絵に登場している「腰から下がにゅーっと長くのびて背が高くなっている女のひと」という特徴のある画像要素を活かしてリデザインしたのが「たかおんな」であると見ることは、無理のないものでもあります。
▼高女
「たかおんな」は、見ひらきでいっしょに描かれている「てのめ」との関係がハッキリしない組み合わせですが、版本の挿絵にある画像要素からリデザインされた画像妖怪同士の対であると考えることは可能です。
up.2026.06.16
■高女
▼鉄漿…涅歯。鉄などを用いて歯を黒く染めること「かね」や「つけがね」とも。既婚女性のしていたもの。
▼八間…天井に取り付けて室内を照らすためのもの。底のない木でつくった八角形や四角形の枠に紙を張って覆ってあるのぢゃ
▼太平百物語…この本には「おんもらき」のはなしも「西の京陰摩羅鬼の事」(巻5)に収録されているのぢゃ
▼祝言…結婚式
▼遺言…先妻は、自分の死後は「後の妻を御入れありて跡に残りしうなひごを守り立て此家を続がさしめ給へ」と告げていたのぢゃ
▼本文には…『太平百物語』の本文には先妻の幽霊は「死に失せたりし女房 窓の透間[すきま]より座敷の体をながめゐける」――とあるダケで、腰からしたが高くのびているというのは「絵」の側にある処理なのぢゃ