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ろくろくび

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

ろくろくび

飛頭蛮・轆轤首・轆轤頭

「ろくろくび」は、呼び名のみが絵に添えられています。

まえへつぎへ

■首がするする屏風より高く

石燕は、首がするすると長くのびた状態の「ろくろくび」を描いています。「ろくろくび」な人間は、若い娘さんのすがたで描かれており、髪型は寝崩れて、櫛はまくらもとに落っこちてしまっています。のびた首の先の頭は、室内に立ててある屏風[びょうぶ]よりも高い位置にのぼっています。

室内には明かりとして「ぼんぼり」が立ててあり、横になっている胴体の近くには、枕[まくら]と衾[ふすま]があり、この娘さんが眠っている状態であることを示しています。屏風には梅[うめ]のさがり枝と川の流れの絵が描かれています。

他にも小道具としてはみだしなみに用いる鏡台や耳盥[みみだらい]が置いてあり、女のひとの部屋であることが強調されています。

■狩野家の絵巻物では

狩野家の絵巻物でも「ろくろくび」は基本セットのなかに組み込まれていて、描かれることの多い妖怪です。呼び名については「ぬけくび」と書かれることが多いようですが、「ろくろくび」と書かれている絵巻物も確認出来るので、絵巻物の段階からデザイン自体が「ろくろくび」と呼ばれていたことも考えられます。

絵巻物でも「ろくろくび」は決まって、枕を置いて眠っているかたちで描かれており、首がするすると出て行くのが当人の「眠っているとき」であることを現わしています。

石燕が描いている「ろくろくび」も、枕以外に周囲に足された小道具大道具の類をのぞくと、基本のデザインは狩野家の絵巻物で描かれて来た「ろくろくび」を踏襲していることがわかります。

■にゅーっとのびてるのは首なのかどうか

山岡元隣『百物語評判』(1686)には「轆轤首」(巻1)のはなしが載っており、絶岸[ぜつがん]和尚が肥後国で泊まった家の女房の首が、眠っているあいだにするすると飛びまわっていたという様子が描写されています。

その「頭」の飛んでいる様子は「通ひしあとに白きすじのやうなる物見えたり」と描写されていて、同書の挿絵でも移動経路を示すような線が空中に引かれながら飛んでいる様子が絵になっています。この「白いすじ」のようなものが、にゅーっとのびた首そのものなのか、単なる動きの残像などがそう見えるようなものなのかについてはハッキリしません。

■ろくろくび・ひとうばん

石燕が用いている「飛頭蛮」という用字は、当時の字書などに広くあったものを引いて来た結果で、『書言字考節用集』(巻5・肢体門)でも「ろくろくび」に「飛頭蛮」や「轆轤頭」などの字が見られ、『和漢三才図会』(巻14・山外夷人物)では「飛頭蛮」の項で日本での俗名として「ろくろくび」(轆轤首)を挙げて解説しています。

「飛頭蛮」[ひとうばん]あるいは「尸頭蛮」[しとうばん]は、南のほうの土地に住んでいると考えられていた異国のひとびとで、夜になると「頭」の部分ダケが飛びまわって、虫などを食べると語られていました。

耳を翼のようにぱたぱたと動かして飛ぶとも書かれていますから、特徴としては、「首」がにゅーっとのびるような「ろくろくび」とは、だいぶ動きの特徴としても隔たりがあります。

■おそろしき夢を見はべる

いっぽうで、日本の「ろくろくび」のほうも、時代が古くなればなるほど、「頭」の部分ダケが独立して動きまわるかたちのほうが多くて、『諸国百物語』の「越前の国府中ろくろくびの事」(巻2)や、『太平百物語』の「百々茂左衛門ろくろ首に逢ひし事」(巻4)に描かれている「ろくろくび」も、屋外で「頭」ダケが目撃されるおはなしです。

また、このような「頭」の部分ダケが屋外で発見される「ろくろくび」のはなしは、「頭」のみになっている状態で体験したことは、本人からすると「夢」のなかでの出来事として認識されている点に特徴があります。

▼飛頭蛮
「ろくろくび」と、見ひらきにいっしょに描かれている「さかばしら」は、よく知られているもの同士という繋がりなのか、家のなかで起こるもの同士であるのか、あんまり一対としての関係はハッキリしません。

しかし、どちらも古い時代から版本にも登場していてひとびとに広く知られて来ているものではあるので、『画図百鬼夜行』に描かれている妖怪のうちでは伝承要素のクッキリとした部類のものです。


up.2026.06.17

■飛頭蛮…和漢三才図会、書言字考節用集
■轆轤首…和漢三才図会、百物語評判
■轆轤頭…書言字考節用集




▼衾…眠るときに体にかける夜具。寸法のおおきな着物のようなかたちをしているのぢゃ
▼耳盥…洗顔や含嗽、化粧のときに用いる器で、水をなかに溜めて使う。漆ぬりで仕上げてあるぞ
▼轆轤頭…『書言字考節用集』(巻5・肢体門)の割注では「代酔」という典拠名が記されているぞ
▼ぬけくび…佐脇嵩之『百怪図巻』(1737)などでは「ぬけくび」で書かれているのぢゃ。「鳥羽僧正真筆」と仮託されている絵巻物(旧・加賀屋れい所蔵)などは「呂久呂頭」とあり、『書言字考節用集』などにある「轆轤頭」という用字から考えれば「ろくろくび」とよむことが可能だぞ
▼眠っているかたち…狩野家の絵巻物では、胴体は就寝しているものの、いずれも「ぬけくび・ろくろくび」の顔はシッカリと眼のひらいた覚醒状態の顔になっているのぢゃ
▼諸国百物語…夜道に女の首だけが現われて、にこにこしていたので脇差で斬りつけようとしたところ逃げてしまった――という展開のもので、眠っていた女のひとから抜け出て、そのように外に出ていたというはなしになっているぞ
▼太平百物語…夜道の塀のうえに女の首だけが現われて、にこにこしていたので杖で突こうとしたところ逃げてしまった――という展開のもので、コチラも眠っていた女のひとから抜け出て、そのように外に出ていたというはなしになっているぞ