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『大佐用』

王摩系統な絵巻物の比較表

「後絵巻紀」に描かれてきた、大部分が画像細胞を多くもった妖怪たちによる構成の絵巻物のうち、「蓮っ耳」な悪魔・魔王たちのいる特徴を中心につながりが見られる絵巻物たちを中心とした比較表です。確認次第増補して参ります。


●四十九 『妖魅四十有九態』(妖魅四十九有態とも) (* 大佐用 vol.7も参照)
●百妖図 『百妖図』
●百鬼異 『百鬼異形之図』、『百鬼異形絵巻』  (* 大佐用 vol.249も参照)
●化け物 『化け物尽くし』  (* 大佐用 vol.264大佐用 vol.265も参照)

 →vol.267 「また王摩系統の絵巻物」 も参照(2023年5月に類似の絵巻物がまた1本市場に出ました)


いずれも、18〜19世紀ごろに描かれた絵巻物の写本群とみられ、厳密にこの系統の端緒となった作品はハッキリしません。

比較表では、3種以上の関連がみられる画像妖怪の欄は色を変えてあります。この比較によって、ここで採り上げた絵巻物の系統(2023年4月段階で4種5本)は、直接とはいえないものの、前後関係が密接であることがわかって来ます。



「●四十九」と「●百妖図」は2010年代には、王摩・王魔などの画題の共通点や、後述する画像要素(蓮っ耳や御幣)の共通性から注目されて来ましたが、「●百鬼異」や「●化け物」のほぼ全巻の構成が確認されることによって、複数の関係性が比較想定出来るようになって来ました。


まず、「●百鬼異」はこの中では先行あるいは別箇の流れにあることがわかります。この絵巻物は具体的な個々の妖怪種目というよりも、汎用な単語の存在が描かれているのが特徴です。「●百鬼異」とどれか1種のみという組み合わせ(魔王・摩王、化性・化生、天魔・天摩、外道・外道、悪霊・アクリャウ/魔鬼神・悪神)が多い点から考えると、「●百鬼異」の流れに存在するデザインが、残りの3種の絵巻物に採り込まれて行ったことが推測されます。

「●百鬼異」での悪霊の眼や血の描き方が凝ったものであるのに対し、「●四十九」の描き方はかなり異なる点や、「●四十九」は基本的に「魔」を「摩」としている点やカタカナに略記している点などからも、「●四十九」よりも「●百鬼異」は先行してる作品であろうことは推測出来そうです。



残りの3種については、3種とも描かれているものがあり、確実に関係性があることがわかります。また、「●四十九」と「●化け物」にしかない組み合わせ、「●百妖図」と「●化け物」にしかない組み合わせが存在することもわかります。

そのことから、「●四十九」・「●百妖図」の流れが合流した一例が「●化け物」、あるいは「●化け物」の流れから「●四十九」(百鬼異形の魔物が多く狩野基本種が少ない)「●百妖図」(狩野基本種や霊怪が多い)がそれぞれ分化した一例――と、2つの経路が考えられます。

しかし、現状では「●化け物」におらず、「●四十九」・「●百妖図」にしかない妖怪――あるいはその逆(怪有や、眷属・転化)、また、1種にしか確認出来てない妖怪もいるため、前後関係をハッキリさせることは出来ません。

また、憶えておきたいのは「●化け物」は2巻構成であるという点です。「●百妖図」と「●四十九」に描かれているバランスの差は、参照した絵巻物の巻別による差違、あるいは本来はセットであった別巻との離別がある可能性もあります。


呼び名に「神」と付く存在については背後や腰に御幣を描き込んでいることも多いことが、この系統に属する絵巻物のデザインの特徴として挙げられます。これは「蓮っ耳」と同様に宮川春水『怪物図巻』にも見られる特徴で、「ムジナ」(●四十九)と「尻目」、「物の気」(●百鬼異)「影蛇」のデザインが近しい点と共に、注意が必要な箇所になって来ます。

このような点から、ここで採り上げた4種以外、「蓮っ耳」のみが見られる絵巻物に描かれている馬肝入道・充面・為憎などについても、宮川春水『怪物図巻』とのつながりや、画像要素の類似(忽響⇔蟹鬼や、鰐口⇔有夜宇屋志)も通じて、重なっている妖怪は乏しいものの、さらに系統づけをしてゆくことが可能になります。



協力・ぷらんと、猫屋敷、東龍斎小虚

四十九百妖図百鬼異化け物備考
摩王魔王
鬼カミ鬼神悪神●御幣●鬼カミは蓮っ耳
山神●御幣●山神(サンシン)
風神風神●蓮っ耳
マシメ●蓮っ耳
姥ガ火姥ヵ火●背景に草原
モウネン盲念忘念もふ念●「忘念」は顔にハッキリした隈取り
ノヅチ野頭地
海童
アヤカシあやかせ
モモンカももんくわ
鬼女●蛇身とほぼ近いデザイン
一念一念一念
トウロギ登宇露鬼
雪坊主雪坊主雪ぼう主
ホウズ放頭ほうず
マミ
ノブスマ野襖野ぶすま●狩野+ とは異なるデザイン
海法師
蛇女蛇女
木王木生●木王(コタマ)
ジャマン邪魔邪魔じゃま
人玉人霊人魂人玉●百鬼異は背景に柳樹で別デザインか
夜入道夜入道
ヤク神
ビンボウ神びんぼう神●御幣
山姫
ヲンリャウ怨霊怨念(般若)●被布をした鬼女
天摩天魔●頭頂デザイン異なる●「天摩」は蓮っ耳
外道外道●顔や黒雲デザイン異なる
蛇心蛇身蛇身
悪鬼悪気にじ神●口から光彩を吹くかたち
モクジイ
モウジャ亡者●亡者の「もう」は目偏に亡
山男山の主
大入道大入道
ワァ怨霊和阿●「怨霊」は近しい例としてカウント
天狗天狗(ぐびん)●「(ぐびん)」は2023年「狗瓶」と紹介
大馬風大馬
ガイコツ骸骨亡火
化生化性●ふくろを持つ
カマイタチ鎌鼬鎌いたち
王广王魔王广●四十九は「魔」にあてる字は「摩」が多い
悪广
天狗星天狗星
アクリャウ悪霊悪霊●四十九や百妖図は描写がマイルド(百鬼異が先行か)
ウヌメうねめ
マセウ
ムジナ●春水『怪物図巻』の「尻目」に近い
悪神魔界神●衣や顔デザインかなり異なる●御幣
火叉夜叉●百妖図では車の轅のようなものを持つ
幽魂幽霊●百妖図は卒塔婆・草原が背景
忘魂井戸の声●デザインは異なるが「忘魂」も井戸らしいものから出てる
生霊執念
死霊
中有
怨念●百妖図の「怨念」は火の玉
陰火●背景に墓石と草原
骸骨●背景に卒塔婆と草原
流仏●流灌頂と火の玉が描かれる
無念●切腹
古戦場●草原に火と小さい妖怪たちが描かれる
魔性
波旬●土佐家の百鬼夜行絵巻に似る●御幣
悪魔●口から光彩を吹く
心魔
凶鬼
鬼御所
物の気●前景に障子●按(ぷらんと)春水『怪物図巻』の「影蛇」に近い
見帰●按(ぷらんと)菱川師宣『見返り美人図』がモデル?
瓠たん子●ひょうたんこ●「たん」は単+瓜
一般的な画題のデザイン
画題として一般的な種類の妖怪たちですが、王摩系統同士での共通性はやや低くなっています。
「飛頭蛮」(狩野でのぬけくび・ろくろくび)のように、狩野系統の妖怪絵巻物と題材が重なってても、別デザインになっていることが多い範囲のようです。
妖狐(九尾の狐)百妖図は「白面金毛九尾」と添える
油なめ油なめ●「なめ」は口偏に止
姥ヵ火●目の玉がとびでてる独自タイプ
飛頭蛮●前景に障子
狒々●四十九「山神」に近い背景
狩野家デザインとつながる種類のデザイン
『百妖図』・『化け物尽くし』の2種には、狩野家に伝承されていた粉本に見られるデザインの妖怪たちが数種ずつ入ってます。
「わいら」が「和意烏」になっているなど、この2種の絵巻物の流れに前後関係が存在することはここからも推測出来ます。
和意烏和意烏●狩野「わいら」
小女郎小女郎●狩野「野狐」
川童(河童)●狩野「河童」
山彦(山彦)●狩野「山彦」
牛鬼●狩野「牛鬼」
蛇婦●狩野「濡女」
猫俣●狩野「猫又」
優婦女●狩野「産女」
塗南苔●狩野「塗仏」
雪女●狩野「雪女」
化転●狩野「おとろし」
眷属●狩野「うわん」
山姥●狩野「山姥」
一眼●狩野「目一つ坊」
生鬼羅●狩野「しょうけら」
わうわう●狩野「わうわう」
精呂魔●精呂魔(じょろま)●狩野「わうわう」に近い
怨霊怨霊●狩野+ 藤澤衛彦旧蔵の絵巻物に類例あり
無眼無眼●狩野+「めくらどら」郷澄「撫座頭」
茂門果●狩野+「のぶすま」郷澄「山あらし」
怪有●狩野+ 郷澄「赤がしら」
絵草紙からの転用とみられるデザイン
『化け物尽くし』にのみ確認出来ます。版本からの転用で、ぷらんとの比較(2023.3)によって『百鬼夜講化物語』に見られるものが描き込まれていることが確認出来ました。
猿王●按(ぷらんと)「猴王」
蛮名●按(ぷらんと)「コワバカラチキ」