濡女
「ぬれおんな」には、呼び名のみが絵に添えられています。
まえへ|つぎへ狩野家で描かれて来た妖怪絵巻物にも、「ぬれおんな」は描かれており、石燕の「ぬれおんな」も、そのデザインを用いて描かれています。蛇体に長い黒髪の女のひとの顔があるという見た目の特徴は重なっていますが、石燕のデザインでは「手」が描き加えられているなど、独自に工夫されてもいるようです。
狩野家の絵巻物は妖怪のデザインのみで背景の存在しない例がほとんどですが、「ぬれおんな」は特に背景はないものの、雨と共に描かれることが多いです。
石燕も画面内には雨の線を描いていて、それにプラスして川べりに生えている木からにょろにょろと出現しているようなすがたで「ぬれおんな」を描いています。「蛇体」という画像要素から「川」という舞台設定を与えたのだと考えられます。
蛇のように長い舌は、狩野家の絵巻物でも共通して描かれる「ぬれおんな」の画像要素です。
石燕は、真横からのアングルに顔の向きを工夫して、鉄漿[おはぐろ]な長い牙や歯を描き添えており、同様な特徴は百鬼拾遺での「どうじょうじのかね」でも描いています。
葉っぱの描き方が、技法寄りになっていてハッキリしづらいですが柳[やなぎ]であると見れば、蛇柳[じゃやなぎ]を意識して描き込んでいると連想することも可能です。
川の水のなかに描かれている蛇篭[じゃかご]も、「ぬれおんな」の蛇体に合わせた連想で配置されているということは深く考えずとも、気のつく道具立てですが、単純に川の景観として描いたとしても、上記の要素たちは入って来てしまうものですから、どこまで意識してのものであるのかについては、ハッキリしないとも言えてしまうのも、また実状ではあります。
しかし、「きよひめ」などを連想させて「川」を舞台設定にした、とは確実に言えるであろう要素ですから、「蛇体の女妖怪なので川」という見方は成立しているのでしょう。
▼濡女
「ぬれおんな」は、見ひらきにいっしょに描かれている「ぬりぼとけ」とは狩野家の絵巻物に見られる独特な画像妖怪たち同士として描かれていると見られます。
狩野家の絵巻物で描かれて来ていた「ぬれおんな」を、石燕が明確にリデザインして描いていることがわかる「絵」のひとつです。
まず大きな変更点は「手」を付け足していることです。それがあることによって特に大きな変更点となっているわけでもないわけですが、石燕が「狩野家の絵巻物にある画像妖怪をそのまま描いている」わけではないことが、ここからわかります。石燕が「絵」にするうえでの改変やアレンジが他の「画譜」や「写本」とは異なって、かなり加えられていることがここから明確に知ることが出来ます。
顔の向きを真横に変更しているのも同様な点で、そのような変更点に果たして「諷刺・伝承に即した意味」があるのかどうかを考えてみると、背景や小道具などにも果たしてそういった意味が本当に散りばめられているのかどうなのか考究するうえでの観察眼の「絞り」のつけかたに、変化が出て来るのではないでしょうか。
up.2026.08.19
■濡女
▼手…狩野家の絵巻物で描かれている「ぬれおんな」たちの蛇体には「手」がないのぢゃ
▼鉄漿…お歯黒。涅歯。鉄などを用いて歯を黒く染めること「かね」や「つけがね」とも
▼蛇柳…三途の川に生えているとされる柳の木
▼蛇篭…竹で編んだ篭に石をつめたもので川の流れのなかに配置して水流を制御したりするためのもの。◆『日高川入相花王』曰「「無間ならくにしづまば沈め 取殺さいで置べきかと 岸の蛇篭[じゃかご]につっ立上り」