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びょうぶのぞき

鳥山石燕百石乳|今昔百鬼拾遺

びょうぶのぞき

屏風[門+規]

「びょうぶのぞき」には、いろいろと男女の睦言についての熟語の並べられた填詞[かきいれ]が添えられています。

まえへつぎへ

■まくらを並べるその上から

石燕は、寝室に立てられた高い屏風[びょうぶ]越しに、上から様子をうかがってくる「ゆうれい」や「しりょう」のような女のひとのすがたで「びょうぶのぞき」を描いています。髪はざんばらに乱れていて、歯は鉄漿[おはぐろ]になっており、腰からしたはにゅーッとのびており、畳[たたみ]の隙間から出て来ています。

画面でコチラを向いている屏風の裏面は、七宝つなぎの文様の紙が張られています。室内の畳には煙管[きせる]や床盃[とこさかずき]に用いるような台・盃・折敷などが置いてあります。

■のぞきこむ顔

たかおんな」の観察のときに挙げたような、亡くなった妻の霊が、あたらしく家に入って来た新妻を「眺める目的」で出現するようなはなしは、『太平百物語』(巻4)にある「三郎兵衛が先妻ゆうれいとなり来りし事」をはじめとして存在していることは知れますので、そのようなはなしを通じて見聞きされて来た、「めおとをのぞき込んで来る存在」という要素を独立させて切り出して、「びょうぶのぞき」という画像妖怪を石燕が設定したものだと考えられます。

▼屏風[門+規]
「びょうぶのぞき」は、見ひらきにいっしょに描かれている「けうけげん」とは「室内・上からのぞきこむもの/室外・下からみてくるもの」という構図の対に仕上げられているようです。

また、おたがいの填詞[かきいれ]にやたらと四字熟語が存在しているのは、意識されたものと見ることは可能でしょう。

▼翠帳紅閨[すいてうこうけい]に枕をならべ
美しい寝室で同衾[どうきん]をすること。

『和漢朗詠集』にある大江以言の「遊女」という漢詩に「翠帳紅閨 万事之礼法雖異 舟中浪上 一生之歓会是同」に由来していて、能『班女』をはじめとして、歌の文句にもしばしば出て来る熟語です。

▼顛鸞倒鳳[てんらんだうほう]の交[まぢはり]あさからず
男女が睦まじくまじわること。

▼枝[えだ]をつらね翼[はね]をかはさんとちかひし事も<
これも、「連枝比翼」[れんりひよく]という熟語をやわらげた表現で、「比翼連理」[ひよくれんり]とおなじく、仲良く連れ添う夫婦のこと。

▼佗[あだ]となりし胸三寸の恨[うらみ]より 七尺の屏風[びょうぶ]も猶のぞくべし
睦まじい鴛鴦[えんおう]のちぎりが切れてしまったことに対する「うらみ」から生じて、相手の寝室をのぞきこんでくるのが「びょうぶのぞき」という妖怪だヨ――ということを石燕は示しているようです。

「七尺の屏風」というのは、荊軻[けいか]に命を狙われたときに、秦の始皇帝が飛び越えて逃げた咸陽宮の屏風のことで、「襲い掛かる」のと「屏風つながり」からのひきごとだと言えます。


up.2026.08.10

■屏風[門+規]




▼屏風…室内に仕切りのために立てる調度品。襖[ふすま]のように厚めに紙が張られており、表面には絵を描いたり、金箔を押したり、色紙や短冊・扇面などを貼って、装飾品としても用いられたぞ
▼鉄漿…お歯黒。涅歯。鉄などを用いて歯を黒く染めること「かね」や「つけがね」とも
▼床盃…祝言の儀式のあと、めおとになったふたりが寝室で交わすもの。近世に入ってから儀式として設けられるようにもなったようぢゃ
▼太平百物語…病死した先妻の幽霊が、再婚した三郎兵衛の祝言の様子を座敷の外からずーっと座敷の外からのぞき込んでいたというはなしぢゃ。その後、先妻の幽霊は、三郎兵衛と後妻に対し、自分の遺言どおりしあわせに暮らしてくれと伝えて来たと言うぞ



▼翠帳紅閨…◆能『班女』曰「翠帳紅閨な枕並ぶる床の上 馴れし衾の夜すがらも同穴の跡 夢もなし」◆能『江口』曰「翠帳紅閨に枕をならべし妹背もいつの間にかは隔つらん」 ▼鸞…霊鳥のひとつ
▼鳳…鳳凰のこと。天下泰平だと舞い出る霊鳥
▼連枝…連理枝。枝をならべつないだ木のこと
▼比翼…比翼鳥。翼がひとつずつダケあり、2羽がいっしょになることで飛ぶことが出来るのぢゃ
▼胸三寸…胸のなかに入っている「こころ」のこと