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ほねからかさ

鳥山石燕百石乳|画図百器徒然袋

ほねからかさ

骨傘

「ほねからかさ」には、鴟吻(蚩尾)に関連した戯文が填詞[かきいれ]として添えられています。

まえへつぎへ

■雨が降ってるときに出る妖怪です

石燕は、風雨のなかを飛んでいる妖怪として「ほねからかさ」を描いています。

画面の左から右に向かって、雨空から頭をしたにして降りて来るようなかたちで「ほねからかさ」は描かれています。身体全体はすべてが唐傘の部品で構成されており、足も唐傘の竹で出来た柄が生えています。また、左右の翅(鰭)の付け根には、竜[りゅう]や麒麟[きりん]などにも良く描かれてる火(火たすき)を模した火が描いてあります。

強めに吹き荒れている雨風は、ねずみ色の版のぼかしで摺られていて、初摺りに近いほどキレイに入っていると見られます。

■百鬼夜行絵巻からのここからリデザイン?

石燕は土佐系統の絵巻物の画像妖怪をリデザインして描いており、傘の妖怪であるという点から『百鬼夜行絵巻』に描かれている唐傘の妖怪の画像要素が部分的に用いられていることは知れます。

しかし、全体的に見ると石燕は「唐傘」という画像要素を『百鬼夜行絵巻』から部分抽出しているダケで、「ほねからかさ」の場合も、大幅なリデザインをしていると言えます。

填詞[かきいれ]で鴟吻[しふん]に結びつけられていることを考えれば、尾の側が上に来ていることも理解もしやすいです。「しゃちほこ」などのような、屋根の上に置かれている飾り瓦たちのように、尾をうえに上げた「飛魚形」のかたちで「ほねからかさ」もデザインされているわけです。

■ぼろぼろなところはない戸外

石燕は『画図百器徒然袋』の序文に明示されているように、「夢」のなかで見た「ぼろぼろな古御所」で遭遇した妖怪たちを描いた――という設定を一貫して用いて背景なども描いています。

ただし、この絵では舞台が戸外の土堤道なので特にぼろぼろに描く対象物がないため、ぼろぼろな造作の要素は存在しません。むしろ荒れているのは「天候」といったところでしょうか。

しろうねり」は本人にも多数ぼろぼろ要素がありましたが、コチラは「骨」という名前にはなっているものの、目立って破れている、壊れている様子などは逆に描き加えられていないようです。呼び名の「骨」で表現されている――と見るのが自然と言うところでしょうか。
「空いている」とすれば、足となっている柄に直結する、上げ下げをするためのからくり部分(轆轤・ろくろ)と骨の箇所がよく見えるように「切れ込み」が入っているような「右の翅」の紙の部分でしょうか。


▼骨傘
しろうねり」とは「竜に関係するもの同士」な画像妖怪として対になっています。最初から一対の存在として想定して描いたものであることはよくわかります。

「ほねからかさ」の竜に関係する要素は、填詞のほうで話題に挙げている鴟吻(蚩尾)に明確にみられます。

『徒然草』の83段には「亢竜の悔」[こうりょうのくい]としてよく知られる文があり、『徒然草』の注釈書として多くの挿絵を収録している『なぐさみ草』(1652)でも、その83段の挿絵として、雲から下へ顔をしょんぼりと出している「竜」の絵のみを出しています。
「ほねからかさ」も雨といっしょに頭が垂れ下がった向きで描かれていますから、「亢竜」(のぼりつめた竜)のその先、つまり、あとは衰えて下に落ちてゆく「竜」でしかないという、『徒然草』を通じて馴染まれていた要素も含まれていることは想像しやすい範囲だったと言えます。

鳥山石燕が実際に用いていた『徒然草』の絵画資料は、版本以外にも当然、絵巻物あるいは画帖の作品も存在したと考えられますから、ここにもヤハリ注意が必要です。

また、「ほねからかさ」と結びつけられている鴟吻(蚩尾)も「竜」の子供だという情報は、石燕は明確に参考書籍で見ていることは明白ですので、「竜に関係するもの同士」という対の関係は、見る側にも非常に成立しやすいものだったと言えそうです。

▼北海
石燕は「北海」に「鴟吻」がいると述べていますが、実際のところは「東海」としている文献が多いです。

戯文な流れで「北」としているのか、「北」としている本からの利用なのか、単なる書き間違えなのかの明確なる判断は、『画図百器徒然袋』の填詞が基本すべてが戯文であるという性質上、組み合わせとして難しいところです。

▼鴟吻[しふん]
蚩尾[しび]のこと。「しふん」の用字は他に蚩吻・鵄吻とも。建物をまもるための屋根の飾りに用いられて来たものです。

『書言字考節用集』(巻2・乾坤門下)では「鴟尾」が「しゃちほこ」、「蚩吻」が「ししぐち」という建物の飾りに用いられることばとして挙げられています。
『和漢三才図会』(巻81・家宅部)の「瓦」の項目のなかでは見出しとしては「蚩吻」[しふん]が用いられていますが解説文には「鴟吻」も混在しており、石燕の選択上にも特に問題はないようです。

蚩尾は、水のちからで祝融[しゅくゆう]回禄[かいろく]の災から宮殿をまもるための飾りとして用いられはじめたもので、もともとは天の「魚尾」や「竜尾」という星の存在を根拠としていたようですが、やがて「竜」の仲間を用いているという語られ方に替わっていったと考えられています。

▼かしらは竜のごとく からだは魚に似て
『和漢三才図会』(巻81・家宅部)の「瓦」の項に並べられている「蚩吻」[しふん]には挿絵がないのですが基本的な文字での解説には――「頭面如竜 身尾似魚 有鰭鱗 蓋此竜子也」とあります。石燕が填詞で用いている形容や、絵として描いているデザインの基本とも合っているため、これをほぼ用いたものだと見えます。

『和漢三才図会』の「竜」(巻45・竜蛇部)「魚虎」(巻49・魚類江海有鱗)でも「蚩吻」については語られていているのは確認出来ます。
「竜」の項では竜から生まれるいろいろな子供たちの解説中に「蚩吻」は挙げられていて、「呑むことを好む」という火を吸収する能力についてが記載されています。おなじ能力は「鰲魚」[ごうぎょ]という竜から生まれる子供たちにもあることがおなじく掲載されてもいます。
「魚虎」[ぎょこ]の項では、屋根に飾られる「しゃちほこ」(魚虎)と「嗤吻」(蚩吻)は近しい――ということを解説しているわけですが、コチラにも「竜頭魚身」という形容は出て来ます。

▼雲をおこし 雨をふらす
コチラは「鴟吻」(蚩尾)の特徴のように書かれていますが、ドチラかと言えば雲や雨を呼ぶのは「竜」の特徴として古くから述べられている特徴だと言えます。

雨が降ることによって「ほねからかさ」の「傘」との接続をしています。

▼このからかさも雨のえんによりてかかる形を
雨のなか出現している、このようなかたちの「ほねからかさ」も「鴟吻」のように雨にかかわる唐傘の画像妖怪かも知れませんネ――と石燕はおどけているわけです。

『画図百器徒然袋』で石燕が多用している、典拠の「あるもの」に対してそれとは「異なるもの」を提示して、ソチラを自分の画像妖怪であると設定する戯文で構成された填詞[かきいれ]になっていることが、これもわかりやすい例だと言えるでしょう。

▼えんによりて
「鴟吻と縁がある」という「えん」に、「雨やどりのための縁先」の「えん」の音を寄り重ねています。


up.2026.05.23

■骨傘
――石燕の手による画像妖怪



▼傘…石燕の書いている「傘」の字は从と从のあいだにもう1画が入るかたちの書体だぞ
▼蚩尾…「蚩」と「鴟」は音がおなじことから混同されて「しび」も「しふん」も表記が混ざってるのぢゃ。古い別の音通には「祠尾」もあるぞ
▼唐傘の妖怪…『百鬼夜行絵巻』に描かれている唐傘の妖怪には、身体があるぞ。「鴟吻」のようなかたちにするという改造を経ているので「ほねからかさ」とは基本姿勢が異なって来るのは当然なことだぞ。石燕が大幅に手を入れることは至って日常茶飯事ぢゃ
▼飛魚形…飛び上がっているような魚のかたち。『墨客揮犀』にある形容で、『書言字考節用集』(巻2・乾坤門下)の「鴟尾」の割注のなかにも「飛魚形尾指上」と引用されているぞ
▼天候…「ほねからかさ」の背景に描かれている木の枝も風雨に揺れている様子が描き出されているぞ
▼本人…『百器徒然袋』の妖怪たちは、「おさこうぶり」などのように題材となっている器物自体は壊れが薄く衣裳のほうに破れがある例と、器物自体が身体になっている「しろうねり」のように破れがある例が多いが、この「ほねからかさ」のように破れが極端に少ない例もあるぞ。
▼轆轤…「ろくろ」は傘をひらくために設けられている上下に動くからくりのこと


▼亢竜の悔…位にのぼり極まった「竜」が、あとは衰えてくだることしか先がないと悟ってかなしむことぢゃ。望月は必ず欠けるというたとえと同類のいましめだぞ
▼北海…「しゃちほこ」と関係のある「魚虎」は「南海」や「西南海」にいるとされるぞ。なので「北海」と比べるとこれも逆さまで別方向なのぢゃ◆『本草綱目』曰「魚虎 生南海中」
▼鴟吻…蚩尾からはじまる歴史については呉槐「屋上の陶竜」や、松崎慊堂「釈瓦」、松本文三郎「鴟尾考」などに要点がまとめられているぞ◆『一切経音義』(巻93)曰「鴟吻 今殿堂結背 両頭之飾也」
▼鵄吻…鵄[とび]の吻[くち]をかたどっているという解釈がこの用字については説かれることが多いぞ。◆『一切経音義』(巻15)曰「鵄吻 瓦獣飾也 吻口也 象鵄喙也」
▼屋根の飾り…日本では瓦葺きの屋上に設置される「蚩尾」のことを、その形状から古くは「くつがた」(沓形)と呼んでいたぞ。のちに「しゃちほこ」などになったぞ
▼鴟尾…『書言字考節用集』の「鴟尾」の割注には「本字 蚩尾」とあって、「しび」は「蚩尾」のほうがモトモトの用字だとはしているぞ。しかし、蚩尾・鴟尾・祠尾はドレが原義を持つ用字なのかはクッキリしていないのぢゃ
▼ししぐち…「蚩吻」の訓みとして混用されていたもので、「蚩尤」[しゆう]をかたどった鬼瓦のようなものとして「蚩吻」が解釈されて生じたあとづけな考え方ぢゃ。『書言字考節用集』の「蚩吻」の割注にも、「蚩尤」をかたどったものだという解説は引用されているぞ、◆『書言字考節用集』(巻2・乾坤門下)曰「称摸蚩尤首」
▼水のちから…◆『蘇氏演義』曰「蚩者海獣也 漢武帝作栢梁殿 有上疏者云 蚩尾 水之精 能辟火災 可置之堂殿」◆『和漢三才図会』(巻81・家宅部)曰「城櫓及唐僧寺 屋棟皆安 鴟吻 尋常民家不許置之」
▼魚尾…◆『墨客揮犀』「天上有魚尾星 宜為其象 冠於屋以禳之」
▼星…松本文三郎は「魚尾」は「魚尾宮」であり「摩竭魚」のことだろうかと「鴟尾考」で示しているぞ
▼和漢三才図会…蚩尾・鴟吻についての個別の挿絵は掲載されておらぬぞ
▼江海有鱗…『和漢三才図会』では「有鱗」に分類しているが、モトモトは「無鱗」の仲間として分類されておるぞ。「しゃちほこ」のからだは鱗で包まれいるがソレは日本のはなしで、基本となる「魚虎」[ぎょこ]のからだは「はりねずみ」のようだからぢゃ
▼蚩吻…◆『和漢三才図会』(巻45)曰「蚩吻[しふん]好呑 殿背之獣」
▼鰲魚…◆『和漢三才図会』(巻45)曰「鰲魚 好火」
▼竜頭魚身…◆『和漢三才図会』(巻49)曰「城楼屋棟瓦作置 竜頭魚身之形 謂之魚虎[しゃちほこ]蓋置嗤吻[しふん]於殿背 以辟火災者有所以」
▼雲や雨を呼ぶ…◆『源平盛衰記』(巻11・金剛力士兄弟事)曰「鉄は小にして強き事万物に勝[すぐれ]竜子は小なれども雲を起す事も大竜に同じ」◆『平治物語』曰「竜の子はちいさしといへ共 よく雨をふらすとも」◆『太平記』(巻32・神南合戦事)曰「竜の天に翔て雲を起し 虎の山に靠[よりかかっ]て風を生[うむ]が如し」◆『文選』(聖主得賢臣頌)曰「虎嘯而風烈 竜興而致雲」◆『竜経』曰「群竜乗雲注雨以済蒼生」◆『易経』曰「雲従竜 風従虎」◆『淮南子』(天文訓)「虎嘯而谷風至 竜挙而景雲属」