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ゆきおんな

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

ゆきおんな

雪女

「ゆきおんな」は、呼び名のみが絵に添えられています。

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■雪持ち竹の白い色

石燕は、雪のたくさん降りかぶった竹[たけ]のたくさん生えているなかに、ひゅーッと立ち上がった「ゆきおんな」を描いています。髪の毛が長いのと同様、なぜか体毛もすこし濃いようで、袖[そで]からすこし見られる腕は毛深く強調して描かれています。

「ゆきおんな」は空中に立っており、着物の裾[すそ]まわりの下のほうは透きとおって、見えなくなっています。また、帯もチョット透けているようで、背景にある竹の葉っぱがとおりぬけて見える効果に描かれている部分もあります。

ねずみ色の版を輪郭を用いずに白くぬくことで雪を表現する形式は、木版印刷ならではの表現で、綺麗に雪を画面に表わしています。画面下のほうには雪の重みで柴垣に向かって倒れてしまった竹たちも描かれており、「いろいろなかたちの雪持ち竹」を描写することにも石燕は注力しているようです。

■狩野家の絵巻物では

狩野家の絵巻物でも「ゆきおんな」は基本セットのなかに組み込まれていて、描かれることの多い妖怪です。背景として雪原や雪が描き添えられていることもありますが、雪持ち竹が並んでいる例はないようですから、この大道具設定は石燕が加えたものだと言えます。

いっぽう、同様に雪景色な竹林に、つややかな白絹の着物を着た背の高く、髪の真っ白な「ゆきおんな」を描いている絵は、『宗祇諸国物語』(巻5)にもあって、先輩表現として、参考になっている可能性は十二分にあります。ただし、絵巻物・版本のドチラの「ゆきおんな」も石燕のように腕が「毛深く」描かれてはいません。

■雪女はつもってかたまった雪から生じる

「ゆきおんな」は能『雪鬼』のなかで描かれており、交野(片野)の里で在原業平[ありわらのなりひら]と結ばれたものの春になってしおしおと溶けてしまった「ゆきおんな」が登場します。「ゆきおんな」は「年経る雪の高根高根 深谷の岩間にこりかたまって をのづから化生の人体と成る」あるいは「山々峰々 尾上 谷の戸に 降りたる雪の つもりつもりて石金なれや こりかたまって年ふる雪の鬼と成って」などと設定描写されていて、雪そのものから生じるものであることが示されます。

おなじような能『雪翁』も、別名に『雪女』または『雪折竹』という題名があり、寂連[じゃくれん]法師が雪の重みで折れてしまった庭の竹たちを見ていると「囲いをしてあげればよいですよ」と助言するふしぎな女のひとのすがたになって「ゆきおんな」が登場します。

あるいは、御伽草子の『雪女物語』などでも、妖怪としての「ゆきおんな」が堂々と登場して暴れており、そのような先行する能や物語での「ゆきおんな」が、狩野家の絵巻物の「ゆきおんな」の画題になっていたであろうことは自然とわかります。

▼雪女
「ゆきおんな」と、見ひらきでいっしょに描かれている「まくらがえし」は、よく知られているもの同士という繋がりなのか、陰のもの同士な関係であるのか、あんまり一対としての関係はハッキリはしません。

山岡元隣『百物語評判』(1686)でも「雪女の事」(巻4)で「ゆきおんな」が採り上げられています。元隣は、「雪」が六角形なのも陰の数の「6」に由来するとしつつ、「雪」も女」も「陰」に属する存在なので、たくさん降りつもった純陰の状態の雪から生じるのは「雪女」なのだと理論を立てつつこじつけています。同書には、ほかにも「うぶめ」(巻2)や「ろくろくび」(巻1)「つるべび」(巻1)などを載せており、『画図百鬼夜行』は上巻とおなじく中巻にも共通した素材が多く確認出来ます。


up.2026.06.

■雪女…雪女物語、宗祇諸国物語、百物語評判





▼毛深い…『雪女物語』には、「ゆきおんな」の正体が大きな「たぬき」だったこという設定が出て来てもいるので、そのような要素を引いた先輩表現の流れが絵巻物や肉筆にはあったのかも知れぬのぢゃ。『大佐用』vol.254「おおきな雪女は狸」
▼白絹…◆『宗祇諸国物語』(巻5)曰「せいの高さ一丈もやあらん かほより肌すきとほる計[ばか]り白きに しろきひとへ物を着たり 其の絹[きぬ]未だ此の国にみなれず こまやかにつややか也」 ▼雪鬼…『伊勢物語』の古註にある在原業平が女のすがたになってあらわれた雪の精と出会ったとする文章をモトにして『雪鬼』は構成されたと考えられているぞ。能『雪鬼』は、よく演じられていたものの中途で廃曲になってしまい、徳川代の前半ごろまでしか影響は及んでなかった様子ぢゃ。◆『長禄記』曰「何共無く女来て御宿を参らせんと云ふ やがていざないて一夜契給ひしに情深かりければ都に列れて帰り 無程[ほどなく]明る春の長閑気[のどけき]に顔ばせ白々と成つつ 姿も消て失にけり 雪の精とは其の時こそ被思知けれ」◆『伊勢物語当流抄』(117段)曰「むかしはゆきのせいも女になり 業平にまみへ 仏果を得たり」
▼鬼…雪鬼の「鬼」は「女のひと」のことを示すという理論は「くろづか」の「鬼こもれりときくはまことか」の「鬼」とおなじことぢゃ。◆能『雪鬼』曰「怖しき心は ただ是[これ]鬼に似たればとて 女を鬼に縦[たとへ]たり」◆能『雪鬼』曰「誠の鬼はこもらで女の隠れゐる家を 塚ときく物を 我も女の身にしあれば鬼とはいはれし也」
▼しおしお…能『雪鬼』曰「帰るや年も立つ春の 女は心なやましく しぼめる花の色なふて匂ひもたゆる顔ばせの しほしほと成果て 日影に消し女こそ 片野の雪の鬼なれ」
▼雪翁…能『雪翁』(『雪女』)のなかには「ゆきおんな」の有名な例として「名は古へに業平の片野の雪女」という文句も登場するので、伊勢古註や『雪鬼』の存在が前提になってつくられていることがわかるのぢゃ
▼六角形…六出[ろくすい・むつかど]と表現されているのぢゃ。◆『百物語評判』(巻4)曰「雪は六出[ろくすい]と云ひてかならず六かど侍る 霜は三出[さんすい]といひて三つかどあり 是れ雪は純陰の物なれば 老陰の数 六なる故 かならず六出[むつかど]あり」
▼陰に属する…◆『百物語評判』(巻4)曰「是れを雪女と云へるは 雪も陰の類 女も陰の類なればなるべし」