山童・山丈・山和郎
「やまわらわ」は、呼び名のみが絵に添えられています。
まえへ|つぎへ狩野家で描かれて来た妖怪絵巻物にも、「やまわらわ」は描かれており、石燕の「やまわらわ」も、そのデザインを用いて描かれています。目の玉がひとつダケある顔をしており、あたまのてっぺんには、小さい子供が「中剃」をしたような、まるく髪のない部分があります。
狩野系統の絵巻物では「やまわらわ」ではなく「やまわろう」という呼び方が多いようです。これは『浄土双六』でも、絵巻物とおなじ呼び方「やまわろう」が用いられています。
絵巻物には背景が存在しないので、石燕は水の流れる大きな岩肌などを「山にいる妖怪」ということで大道具として背景に描き添えています。
「やまわらわ」の眼窩は縦に長くあいており、ふたつ目の玉が並んでいる形状の眼窩とは、ひらき方の異なるデザインになっています。これは絵巻物にも共通した描き方の特徴で、石燕が狩野系統の絵巻物を習熟した上で本作を描いていることがわかります。
石燕の「やまわらわ」は、片手に葉っぱのついた枝を持っています。これも絵巻物にあるデザインから採っているものだとわかりますが、狩野系統の絵巻物に描かれている「やまわろう」たちのデザインは大抵、葉っぱや赤くて小さいつぶの木の実のついた枝を、両手に1本ずつ持って描かれることがほとんどです。
絵巻物では布と葉っぱ、2つの異なった素材を腰蓑のように組みあわせて腰に巻いてあしらった着こなしのデザインになっていますが、石燕の「やまわらわ」は草や木の葉っぱのみの着こなしになっており、布は用いていないようです。
▼山童
前の見ひらきに出て来た「てんぐ/やまびこ」、同じ見ひらきにいる「やまうば」、どちらともそれぞれ「山にいる同士」で連結もうまく繋がってゆきます。また、「やまわらわ」(やまわろ・やまわろう)たちと「かっぱ」たちは、片方は山の妖怪もう片方は川の妖怪という、「対」の関係の存在ではあります。
「やまわろ」「やまわろう」という呼び方も、「やまわらわ」と同様な存在をあらわすことばとして用いられています。これらは説話などの上では「やまおとこ」たちとの区別はあまりついておらず、互いに似たような手伝い・いたずらを山仕事をする人々とのあいだに発生させる存在として語られています。
節用集などでは、「やまうば」と並べて「やまおとこ」を置く組み合わせのほうが多く確認出来るようです。
寺島良安『和漢三才図会』でも「やまわろ」(巻40・怪類)は九州にいるという解説をしています。「貌如十歳許童子 遍身細毛柿褐色」あるいは「与飯雑物喜食 助斫木之用 力甚強」とあり、ごはんをわけてあげると木を斫[き]るなど力仕事の手伝いをしてくれたという性質を記載しています。おなじようなことは橘南谿『西遊記』の「山童」項目にもあり、季節によって夏は「かわたろう」となり冬は「やまわろ」となるという点もソチラでは示されています。
up.2026.05.15
■山童…和漢三才図会
■山丈…書言字考節用集
■山和郎
▼山童…◆瀬川如皐『総猿僣語』曰「伝へ聞く山童[やまわらは]木客[こだま]などいふ類[たぐひ]の妖怪[ようくわい]なるべし」
▼中剃…なかぞり・なかずり。
▼狩野系統…佐脇嵩之『百怪図巻』(1737)をはじめ、狩野系統の絵巻物でも大抵は、枝を手にしているぞ
▼やまわらう…『書言字考節用集』には「かっぱ」たちに「かわわろう」という呼び方が用いられてるのぢゃ
▼「対」の関係…◆寺島良安『和漢三才図会』(巻40)曰「川太郎曰川童子 是曰山童 山川異同類別物也」
▼やまわろ…◆橘南谿『西遊記』(巻3・山童)曰「九州極西南の深山に俗に山わろといふものあり薩州にいも聞しに彼国の山の寺といふ所にも山わろ多しとぞ」「山わろに握り飯をあたへて頼めばいかなる大木といへども軽々し引かたげてよく谷峯をこし杣人のたいけとなる」◆谷川士清『和訓栞』(後編)曰「やまわらう 山童の義 魑魅の類なり」
▼季節…◆橘南谿『西遊記』(巻3・山童)曰「然れば川太郎と同物にして所により時によりて名の替れるものか」