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かっぱ

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

かっぱ

河童・川童・水虎
川太郎・河太郎

「かっぱ」は、呼び名のみが絵に添えられている他、その脇に「川太郎ともいふ」とも添えられています。本文と目録とのあいだで「河童川太郎」に逆転現象が起こっていますが、本文側に「川太郎」という記載も存在しますので、そこまで巨大なズレではないようです。

まえへつぎへ

■かっぱと水と蓮

石燕は、蓮[はす]の葉や花、葦[あし]の葉など、水辺の植物を豊富に描き込んだ上で、そのなかに「かっぱ」を描いています。

蓮[はす]と共に「かっぱ」を描くデザインは既に狩野家の妖怪絵巻物でも採られており、石燕も明らかにソレを踏まえてリデザインをしていると見られますが、もともとの絵巻物の絵では蓮を中心に水からのびた「葉っぱ」たちのみで、「花」は描かれないのが普通でした。

色摺りではないため、「葉っぱ」の緑色や「花」の薄紅色・黄色が鮮やかに目に入るというわけではありませんが、咲いている蓮の花、散りはじめている蓮の花、種のある「はちす」のみになった蓮の花、それぞれの様子を景観として詰め込んでいるので、絵巻物からのリデザインに際して石燕が最も注力していたのは、蓮の「花」を画面に描き込むことだったとわかります。

肉筆絵巻(ボストン美術館)でも、「かっぱ」の箇所は、ほぼおなじ絵組みで描かれていることからも、蓮の「花」を「かっぱ」といっしょに描きたかった点はうかがえます。

■頭にお皿、背に甲羅

石燕の「かっぱ」には明確に「皿」と「甲羅」のデザインが描写されています。

「皿」については狩野系統の絵巻物でも頭のてっぺんの部分が凹んでいるような描写があるので、確認の出来る特徴でしたが、「甲羅」については絵巻物での先輩表現に「広く」は見ることが出来ないようです。
寺島良安『和漢三才図会』(巻40・怪類)での「川太郎」は、身体が毛におおわれているデザインで描かれているほうの絵がありますし、文中にも記載は見られませんので、コチラにも「甲羅」は描写されていません。

■かわっぱ・かわわろう・かわろう

狩野系統の絵巻物では「かわっぱ」という呼び方が多く見られます。

『書言字考節用集』(巻5・気形門)では「かわわろう」が基本的な呼び方に用いられていて、「水虎」「川童」などの用字があてられています。同書の「川童」の注には「川郎」[かわろう]という呼び方も見られます。「すいこ」は「かっぱ」たちを総合的に示す漢語表現として用いられつづけており、学者や文人たちの用字としては、いろいろな場面で見ることが出来ました。

絵巻物に「やまわらわ」の呼び名表記として見られる「やまわろう」と「かわかろう」とは「対」の関係にあって、河童と山童とが、片方は山の妖怪もう片方は川の妖怪という、存在と捉えられていた様子が呼び方からもうかがえます。

▼河童
同じ見ひらきにいる「かわうそ」とは、「水に住むもの同士」の繋がりで、対になっていると言えます。山岡元隣『百物語評判』(1686)では巻4の「がわたろう」(河太郎)のはなしのなかに「かわうそ」のはなしが載っており、世間でも似たようなものと見られていたことがわかります。ほかにも、同書では「ねこまた」(巻3)「きつね」(巻2)「たぬき」(巻2)「いぬがみ」(巻1)「かまいたち」(巻1)「かわうそ」(巻4)なども見られ、『画図百鬼夜行』の最初のほうで描かれているものたちは割りかし、ご近所ではあります。

17世紀から、絵草紙や狩野家を中心に絵巻物で描かれて来ていますが、遡って16世紀ごろにどのように浸透していたのかについてが「かっぱ」や「かわたろう」の場合、そこまでハッキリしていません。

『百物語評判』では、「がわたろう」は「かわおそ」の年を経たものだ――ということが述べられてて、その頃から近しい存在だと表現されることがあったことが知れます。いっぽう、石燕の「かっぱ」には明確に「甲羅」がついていますから、複数のイメージが重なりあっていることもわかります。

逆に18〜19世紀にかけて「かっぱ」や「かわたろう」はかなりの定着を見せてゆき、「きつね」や「たぬき」と並んで定番の画題にもなり、ほぼ全国区の存在となりました。


up.2026.05.17

■河童…
■川童…書言字考節用集
■水虎…書言字考節用集
■川太郎…和漢三才図会
■河太郎…百物語評判



▼川太郎…山岡元隣『百物語評判』(巻4)では「河太郎」という用字で「がわたろう」という訓みだぞ。「かわうそ」の用字も「河獺」なので、河のほうで用字を揃えたぐらいの理由ぢゃろう。同書では「河太郎[がはたらう]も河獺[かわをそ]の劫を経たるなるべし」とあって、「かっぱ」を「かわうそ」の年を経たものだともあるぞ
▼蓮…狩野系統の絵巻物では「蓮」が植物として組み合わせてあるが『和漢三才図会』では川太郎たちのよくぬすむものとして「竊瓜茄圃穀[はたけもの]」とあり、「瓜」や[茄子]が出されているのみぢゃ。絵画と文字ではあつかわれる植物の違いが明らかにあるぞ
▼はちす…種のあるところが「蜂の巣」のようぢゃから蓮は「はちす」と呼ばれるぞ
▼お皿…『和漢三才図会』でも「川太郎」のあたまの形容には「髪毛短少 頭巓凹」とあり、あたまのてっぺんにある水を入れることの出来る器官ついては「凹」という漢字が意識的に用いられているぞ
▼川郎…◆『書言字考節用集』(巻5・気形門)曰「川童 又云 川郎[かはらう]○土俗常云 老獺所変者」
▼かわろう…『和漢三才図会』の「川太郎」の項目にある「川童」の文字も「かわろう」という訓みだぞ
▼川と河の字のつかい方には大して差はないぞ
▼かわおそ…獺の字は「かわおそ」「おそ」と発音されることも多かったぞ