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うしおに

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

うしおに

牛鬼

「うしおに」には、呼び名のみが絵に添えられています。

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■狩野系統絵巻でのうしおに

狩野家で描かれて来た妖怪絵巻物には、「うしおに」という呼び名の画像妖怪が見られますが、頭が牛、体が6本の蜘蛛[くも]の足が横長に生えたようなデザインで描かれており、石燕の「うしおに」とはデザインに重なりが見られません。

石燕の「うしおに」は、本当に「牛」と「おに」とが合わさったようなものになっていて、絵巻物には見られない毛のふさふさしたしっぽや、大きな2本爪の生えた前後の足を見せながら、秋草の生えている草むらから顔を出しているかたちで描かれています。

狩野家の絵巻物は妖怪のデザインのみで背景の存在しない例がほとんどで、絵巻物の「うしおに」には背景の要素は何も見られません。

■蜘蛛は選ばなかった石燕

石燕がどうして、狩野家の特徴ある「うしおに」を描いていないのかは不明です。

いっぽう狩野家の絵巻物の「うしおに」も、まったくおなじかたちで「つちぐも」(土蜘蛛)や「おにぐも」(鬼蜘)などハッキリと「蜘蛛」であることを示している呼び名を添えている例も見られるため、どこまで「うしおに」らしさを持って受け入れられていたのかは不明瞭でもあります。

実際、庶民たちに親しまれた版本や錦絵の範囲内で、蜘蛛の足のような特徴のある狩野家の「うしおに」が描かれつづけていた形跡は、まったく確認することが出来ません。

■知られて来た牛鬼

「うしおに」は『枕草子』の「名おそろしきもの」のなかにも名前が挙げられていますが、この「うしおに」がどういった形状のものであるのかは伝えられていません。

『今昔物語集』にも但馬国の山のなかの寺院に「うしおに」が出て僧侶をばくばく食べてしまった説話が見られます。

しかし、普通に考えれば地獄絵などにも出て来る「牛頭・馬頭」のような「ごくそつ」(獄卒)たちのようなものであると考えるのが一般的です。

『太平記』(巻32)で展開されている「剣巻」な物語「鬼丸鬼切の事」では、大和国の宇多の森に出る妖怪を退治にいった渡辺綱[わたなべのつな]のはなしに「うしおに」が登場します。このはなしの筋立ては「はしひめ」や「らじょうもんのおに」とおなじで、渡辺綱によって斬られた片腕を、鬼が取り戻しに来る展開です。

また『本朝軍器考』(巻4)では、「たまものまえ」と結びつけられることが多い「犬追物」とは別に、古くは「牛追物」という弓の訓練があったということを述べています。そこには「牛追物き神功皇后[じんぐうこうごう] 新羅を伐ち給ふ時 吉備国の海にて牛鬼 射られし事に起り」――とあるように、コチラの場合の「うしおに」は八幡縁起などに見られる神功皇后が退治した「じんりん」(塵輪・塵倫)の故事に出て来る大きな牛を結びつけていることが多いです。

▼牛鬼
「うしおに」は、見ひらきにいっしょに描かれている「うわん」とは狩野家の絵巻物に描かれている画像妖怪同士として描かれていますが、「うしおに」の側は狩野家の標準デザインでは描かれていません。

『枕草子』の「名おそろしきもの」を意識していたとすれば「うわん」の怕鬼要素にあわせて、見ひらきでの対幅の構成をとるために「うしおに」を配置したということも考えられます。


up.2026.08.23

■牛鬼…太平記




▼足…狩野家の絵巻物の「うしおに」の足の本数の大半は6本のようぢゃ。石燕の描いている「うしおに」の足は4本のようだぞ
▼しっぽ…狩野家の絵巻物にある「うしおに」にしっぽが描かれていることはまったくないぞ
▼爪…2本ずつ生えている爪は「わいら」ともジックリ比較して観察すべきところぢゃぞ
▼枕草子…いっしょに挙げられているものには以下のものがあるぞ。あおぶち・たにのほら・はたいた・くろがね・つちくれ・いかづち・はやち・ふさうぐも・ほこぼし・おおかみ・うしはさめ・ろう・ろうのおさ・いにすし・なわむしろ・ごうとう・ひじかさあめ・くちなわいちご・いきすだま・おにどころ・おにわらび・うばら・からたち・いりずみ・ぼたん・うしおに
▼鬼が取り戻しに…『太平記』の「うしおに」のはなしでは、鬼は渡辺綱の伯母ではなく河内国に暮らす源頼光の母上に化けて訪ねて来るのぢゃ。◆『参考太平記』(巻32)曰「七日に満しける夜 河内国高安里より頼光の母儀おはしして 門をぞ敲せける 斎の最中なれども正しきき老母の対面の為とて」
▼塵輪…「じんりん」の魂がなったとされる、海に出現した牛は、「うしおに」と称されることは多いものの「おに」という特徴は特になく、巨大な牛として描写されることがほとんどぢゃ。『神功皇后縁起絵巻』でも「長十丈ばかりなる牛」とあって、海に出て来ているのは巨大な牛として絵に描かれているぞ。林羅山『本朝神社考察』では「大牛」と記されており「うしおに」とは表現されていないぞ