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おんもらき

鳥山石燕百石乳|今昔画図続百鬼

おんもらき

陰摩羅鬼

「おんもらき」には、『怪談全書』などに即した填詞[かきいれ]が添えられています。

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■お寺のなかに出る鬼

石燕は、鳥のかたちの鬼である「おんもらき」を、寺院のなかに出現したという林羅山『怪談全書』(巻4)にある説話に基づいて描いています。口からは火を吐いているようなかたちの演出込みで仕上げられていますが、特に火を吐くといった特徴は見られません。

お寺のなかであることを表現するために、「卍」や「蓮華」の文様のついた、寺院に飾られる講座机・竜頭・提灯[ていとう]・幢旛[どうばん]・銅鉢・香炉・銅盤などが、とにかくたっぷり描き込まれています。

■屍の気から生じる鬼

填詞[かきいれ]が「蔵経の中に」ということばではじまることから明瞭なように、「陰摩羅鬼」はもともと天竺に伝わる、と「されている」鬼のひとつです。

あたらしい屍[しかばね]の気が変じて、「おんもらき」になるといったことが説かれているのですが、語られている範囲の情報要素ダケでは詳しい発生条件などはちょっとボンヤリしています。

『清尊録』にある「如鶴色蒼黒 目炯炯如灯 鼓翅大呼甚氏vや「新死屍気所変」という描写が基本は情報要素のすべてであって、それ以上のものはないのですが『怪談全書』で国字訳された結果なのか、『太平百物語』(1732)では「西の京陰摩羅鬼の事」(巻5)というはなしで平安京のお寺に「おんもらき」が出たという設定に翻案されています。

おなじく『怪談全書』の情報要素を通じた経路から、『駿国雑志』(巻24下)には、古戦場や古い墓地などに発生する「幽霊火」と称される燐火・陰火についてのはなしが掲載されているのですが、そこでも「屍の気」という繋がりで「陰摩羅鬼」が全体の統一的な唐名として当てはめられている例などが見られます。

■亡気から出る鳥

大陸では、『宣室志』にある「鄭生」のはなしのなかで説明されているように、死んだひとの柩[ひつぎ]から「さつ」[殺]と呼ばれるあやしい蒼い鳥が生じるというような例が、しばしば奇談として書きとめられています。

『清尊録』の「おんもらき」のはなしも、そのような流れのなかの一話としてとらえると、わかりやすいのかも知れません。

▼陰摩羅鬼
「おんもらき」は、見ひらきにいっしょに描かれている「わにゅうどう」とは、どこまで共通点があるのかはハッキリしません。

『太平百物語』(巻5)にある「おんもらき」のはなしもコッソリ踏まえて意識しているとすれば、互いに平安京に出たとされるはなしがあるもの同士という繋がりで一対に見ることも可能です。

▼蔵経の中に 初て新[あらた]なる屍[しかばね]の気 変じて陰摩羅鬼[おんもらき]となる
林羅山『怪談全書』(巻4)にある「蔵経の中に初て新なる屍の気変じて斯如[かくのごとし]これを陰摩羅鬼と号[なづ]く」――という開宝寺の沙門のせりふをそのまま持って来て下敷きにしたもので、「蔵経の中に」という箇所もそのままです。

▼そのかたち鶴[つる]の如くして 色くろく 目の光ともしびのごとく 羽をふるひて鳴声[なくこゑ]たかし
鶴[つる]のようで黒く、目がひかっていて、鳴き声は高い――という「おんもらき」の特徴がつづられています。『太平百物語』では「鶴」[つる]ではなく「鷺」[さぎ]に似ているとしている差異があります。

このあとにつづいて出て来る『清尊録』にあるということになっていますが、これも『怪談全書』の「陰摩羅鬼」の項の末尾に添えられている「清尊録にあり」という原話の典拠を示す割注を持って来ているダケのものです。

『怪談全書』を資料として用い、「絵」も「填詞」もつくられていることのハッキリと知れるわかりやすい作例で、「ひでりがみ」や「すいこ」のような『和漢三才図会』が資料に用いた作例たちともおなじようなつくられかたになっています。


up.2026.07.04

■陰摩羅鬼…怪談全書、太平百物語




▼寺院に飾られる…いろいろな仏具祭具の類は「にゅうばちぼう・ひょうたんこぞう」などで描き込まれているものと傾向は共通しているのぢゃ
▼提灯…唐風のちょうちん。土佐秀信『仏神霊像図彙』(1690)などでも似た形状のものが見られるぞ
▼蔵経…大蔵経のこと
▼幽霊火…◆『駿国雑志』(巻24下「陰摩羅鬼」)曰「所々の古戦場 及[および]墳墓の旧地より此火を顕ずる事あり 号[なづけ]て幽霊火と云 是 人血の土中に凝て 永く消滅せざるがなす処にして世に陰摩羅鬼と云 此陰火成べし云々」
▼宣至志…このあたりの死んだ者の霊や気が鳥になって生じるという漢籍でのはなしについては、澤田瑞穂「魂帰る」(『道教研究』2)などが既に指摘しているあたりぢゃ
▼殺…◆『宣至志』(鄭生)曰「俗伝人之死凡数日 当有禽自柩中而出者 曰殺」
▼葵い鳥…◆『宣至志』(鄭生)曰「有網得 一巨鳥 色蒼 高五尺余」



▼平安京…「わにゅうどう」のモトとなっている『諸国百物語』などでの「片輪車」は京の東洞院に出たと設定されているぞ。いっぽう「」で採用されている『諸国里人談』などでの「片輪車」は近江国甲賀郡という設定ぢゃ
▼開宝寺…宋の国のみやこにある寺院。『清尊録』にあるはなしは当然のことながら大陸が舞台になっており、「おんもらき」が出没した寺があるのも、宋の国だぞ
▼沙門…僧侶のことぢゃ
▼特徴…◆林羅山『怪談全書』(巻4)曰「鶴の形にて色黒く 目の光ること灯火[ともしび]の如くにして 羽をふるめひて鳴声[なくこえ]たかく あらし」◆『太平百物語』(巻5)曰「鷺に似て色黒く目の光る事 灯火[ともしび]の熾[さか]んなるが如くして羽をふるひ 鳴く声 人のごとくなり」