海座頭
「うみざとう」は、呼び名のみが絵に添えられています。
まえへ|つぎへ石燕は、海の波間のなかを杖を突きながら歩いている、座頭[ざとう]さんのすがたの妖怪として「うみざとう」を描いています。袴[はかま]を履いて、背中には袋に入っている状態の琵琶[びわ]をかついでいて、琵琶を演奏する座頭さんであることがうかがえます。
波の向かい側、画面の左手には舟が描かれていて、ここが海上であることが描写されています。基本的に石燕は人間を画中に一緒に描き込むことが少ないので、「妖怪」と5尺のからだの「人間」との対比がわかりづらいことが多いのですが、この舟は舳先のかたちからしても大型のものではないようですから、「うみざとう」も「うみぼうず」ほど巨大な図体というわれでもないように観察することは出来ます。
海の色はねずみ色をうえの方向にぼかして摺られています。しかし、後摺りになると手間を省略していたようで、ぼかさずにそのまますべて地つぶしでねずみ色をべったりと摺っておしまいという処理になっているようです。
狩野家の絵巻物や、各種の字書や版本でも「うみぼうず」は良く描かれも説かれもしているのですが、「うみざとう」という存在はほぼ知られておらず、詳しいことがわかりません。
英一蝶[はなぶさいっちょう]の系統だとされている『百鬼夜行絵巻』のなかには、座頭さんの画像要素を持っている画像妖怪がいくつか描かれていますが、狩野家の基本セットには座頭さんを画像要素として用いた画像妖怪自体が見られないようです。
あるいは、現在確認されていない異なる系統の妖怪を描いた絵巻物にはこのような座頭さんのすがたをした画題妖怪がキチンと存在していて、石燕がそのデザインに対して「うみざとう」と呼び名を添えて収録したのかも知れません。
▼海座頭
「のでらぼう」は、見ひらきにいっしょに描かれている「のでらぼう」とは海と山の対になっています。
いっぽう、原典となっている系統は不明なものの、そういう名前の妖怪が「ありふれて知られていない」という点から、両者は何かしらかの先行する絵巻物などからリデザインされた画像妖怪だとも考えられます。
up.2026.06.15
■海座頭
▼座頭…盲僧に与えられた官位のひとつ
▼演奏する…琵琶・三味線・琴などをはじめ、座頭さんたちは楽器の演奏を仕事としているものが多くいたのぢゃ。「おおざとう」なども同様な題材を描いたものだぞ。他には導引や鍼灸を生業としていたひとたちもいて、ソチラは「てのめ」なども参考にするのぢゃ。
▼ねずみ色…この色板のぼかしの「後摺り」での省略は、版木がおなじことになる「うぶめ」でも同様ぢゃ
▼字書…『書言字考節用集』(巻5・気形門)では「うみぼうず」として「鮫人」の字があてられているのぢゃ
▼百鬼夜行絵巻…『百器夜行絵巻』などと題されもしているもので、それらに描かれている背中に「茶臼」をかついでいる画像妖怪は、両目をとじて杖を両手に突いているぞ。しかしコレなどは、まったく「うみざとう」とすがたや特徴は重ならぬ
▼ありふれて知られていない…このあたりは「うばがび」や「かしゃ」「うぶめ」「やなり」など、中巻のほかの妖怪たちと比べてみるとよくわかる点ぢゃ。