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ほねおんな

鳥山石燕百石乳|今昔画図続百鬼

ほねおんな

骨女

「ほねおんな」には、『伽婢子』や『剪灯新話』に即した填詞[かきいれ]が添えられています。

まえへつぎへ

■たずねて来る牡丹の灯篭

石燕は、鹿子[かのこ]模様の入った綺麗な着物を身につけ、牡丹[ぼたん]で飾った灯篭を手にさげたお嬢さんなすがたで歩く骸骨のかたちで「ほねおんな」を描いています。

顔は骸骨になっていますが、手や腕は肉のついている人間なかたちで描かれています。

月の光っている空の下、竹編戸[たけのあみど]で出来た庭門を押し開けて、「ほねおんな」は柴垣[しばがき]で囲まれた屋敷の庭に入ろうとしており、人間の男のもとをたずねてやって来た様子だと受け取れます。庭には松[まつ]の木が立派に植わっているほか、垣の外までいろいろな秋草の花も咲いており、よい景観になっています。

■あまりにも有名なお嬢様な骨

石燕が填詞[かきいれ]でもハッキリとその原拠、さらにはその源流となった説話まで示している、読み手にしても非常にわかりやすいタイプのものです。

直接は『伽婢子』(巻3)にある「牡丹灯篭」[ぼたんどうろう]のはなしが原拠となっていて、荻原新之丞の家に通って来るようになった「弥子」[いやこ]さまは、既に亡くなっており、骸骨が人間のすがたに化けて新之丞と愛を語らっていた――という、非常によく知られた展開のおはなしです。

このはなしは、『剪灯新話』にある「牡丹灯記」という説話のなかみを、日本に舞台を変えて翻案したもので、『諸国百物語』(巻4)にある「牡丹堂女のしうしんの事」では大陸のはなしとして別の設定・展開に脚色し直して出していたりもします。

この、「人間のすがたに化けて通って来る骸骨」という画像要素ダケを抽出して、「弥子」や「牡丹堂のしゃれこうべ」といった個別の物語設定から切り離して、独立させて描いたのが、石燕の「ほねおんな」だと言えます。このあたりは「あめふりこぞう」や「わにゅうどう」などとも同様な傾向です。

▼骨女
「ほねおんな」は、中巻の最後の半丁にあたり、見ひらきでの対応はありません。ですが「あおにょうぼう」、「けじょうろう」とつづいた女のひとのすがたの妖怪の連続とはつながった構成になっていると言えます。顔を見せてたまげさせる/顔がないことでおどろかせる、とつづいて、コチラは正体でびっくりさせるというタイプ。

いずれもキチンと異なる性質のものが配備されていると言えそうです。

▼これは御伽ばうこに見えたる
『伽婢子』に載っているはなしを描いたものです――という宣言がキチンと出されています。

ほかの填詞[かきいれ]もこういう調子で統一されて書かれていれば、現代から見ての「妖怪図鑑のような本」という形容が鳥山石燕のこの版本にも適用出来るのかと思いますが、この百石乳でも再三とりあげている通り、あまり「そういう構造になっていない」ことはご理解いただけるかと思います。

▼年ふる 女の骸骨
『伽婢子』を読んでいない読み手にもわかるように、「年を経た骸骨」が化けたお譲さんであるということを、改めて示しています。

▼牡丹の灯篭を携[たづさ]へ 人間の交[まじはり]をなせし形にして
ここでは、単に人間のもとに通ってくるということダケを切り取っているので、石燕は交際をつづけた結果の影響については言及していません。

『伽婢子』にあるように、荻原新三郎のところに弥子は愛情のこころから通っていたようですが、そこは人間と妖怪の構造の違いがあって、人間の側の精気はどんどん耗散[こうさん]して妖怪の側に奪われてしまい、元気がなくなった身体はどんどん衰弱していってしまいます。

▼もとは剪灯新話のうちに牡丹灯記とてあり
この『伽婢子』などを通じてよく知られているはなしの翻案される前の源流が、明の国の瞿佑[くゆう]というひとのまとめた『剪灯新話』にある物語であることを明言しています。


up.2026.07.09

■骨女




▼お嬢さんなすがた…化け術にかけられている人間には、かおかたちは骸骨ではなく、キチンと肉のついた美女に見えているという暗示がほどこされているのぢゃ
▼弥子…二階堂政宣のご息女という設定なのぢゃ
▼牡丹灯記…このはなしでの主人公の名前は喬生[きょうせい]ぢゃ
▼しうしん…執心
▼牡丹堂…牡丹の絵を描いた箱のなかに入れた人間たちの遺骨を収納しておくお堂として設定されているぞ。◆『諸国百物語』(巻4)曰「人しすれば はこにいれ そのはこのまわりに牡丹の絵をかき かの堂にもち行きてかさねをくと也」



▼耗散…『伽婢子』(巻3)曰「汝は妖魅[ばけもの]の気に精血[せいけつ]を耗散[かうさん]し神魂を昏惑せり」
▼元気…『伽婢子』(巻3)曰「よこしまなる妖魅[ばけもの]と共に寝て悟[さとら]ず 忽[たちまち]に真精の元気を耗[へら]し尽して精分を奪はれ わざはひ来り病出侍らば 薬石[やくせき]鍼灸[しんきう]の及ぶ所にあらず」