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のぶすま

鳥山石燕百石乳|今昔画図続百鬼

のぶすま

野衾

「のぶすま」には、のぶすまの性質についての填詞[かきいれ]が添えられています。目録のほうの文字は「衾」が「食」のようなかたちになってしまっていますが、これは版木が彫られるときの手違いなのか、魯魚であるのかハッキリしません。

まえへつぎへ

■鳥をつかまえて食べたい

石燕は、2羽の小鳥を追って空を飛んで行く「のぶすま」を描いています。「のぶすま」は「むささび」のことで、身体にある皮膜をつかって飛ぶことが出来ます。

画面には大きく小川が描き込まれていて、沢瀉[おもだか]などの水辺の草花も岸辺には生やされています。

■原禽の仲間として書物に載っています

『書言字考節用集』(巻5・気形門)でも「のぶすま」には「野衾」の字が紹介されています。

『和漢三才図会』(巻42・原禽類)では「むささび・のぶすま」としてまとめられており、「野衾」の文字もその項のなかに見られます。このような本草書での特徴は「禽部」――つまり鳥たちの仲間として「むささび」や「のぶすま」のような「空を飛ぶことの出来る生物」の配列がなされている点です。

『和漢三才図会』の挿絵と比較すると、石燕の「のぶすま」は真四角に近いかたちで皮膜をひろげていて、実物に近いデザインになっていますから、『和漢三才図会』よりも良い「絵」としてのお手本が石燕の手近には存在していたことがわかります。

■のぶすまたちの能力

古くから、「のぶすま」たちの技であるようで自在な能力ではないとされて来ている技に飛行についての言及があります。

それは、高いところから低いところへ飛ぶことは出来るけど、低いところから高いところに向かってあがることは出来ない――というもので、石燕が「絵」に描いているのも、まさにそういった飛行の様子です。

むじな」がうっかり居眠りして化け術がとけてしまった様子を描いているように、小鳥たちがすこしでも上に向かって飛んでしまえば、「のぶすま」はごはんの捕獲に失敗してしまうわけです。

▼野衾
「のぶすま」は、見ひらきにいっしょに描かれている「むじな」とは「へんげ」な動物の一対になっているようです。また、コチラはごはんをこれから食べようとしている様子が描かれており「食後/食前」の対にもなっています。

填詞[かきいれ]がまったく存在していなかった『画図百鬼夜行』での「かわうそ」や「たぬき」などのときとは打って変わって、情報要素が足されているわけですが、基本は「絵」としてのつくりが先行しており、文字としての情報はそこから演繹させて書き込まれたものであるようです。

▼形 蝙蝠[かうもり]に似て毛生ひて翅[つばさ]も即 肉[にく]なり
「こうもり」に似ているという描写などは、『和漢三才図会』(巻42・原禽類)にある「状似蝙蝠」や「毛皆紫赤色 背上蒼 腹下黄色」や「肉翅」――などといった『本草綱目』にある解説を引いたもので、以下につづく内容も同様です。

『和漢三才図会』の挿絵は、確かに「こうもり」寄りなデザインになっているわけですが、上でも述べたように、石燕の「のぶすま」はそのデザインを踏襲していないので、『本草綱目』な内容をそのまま引いて来ているダケの填詞[かきいれ]との連動性は低くなってしまっています。

▼四の足あれども短く 爪[つめ]長く
おなじく「四足」や「脚短爪長」など、『本草綱目』由来の説明にもとづいたものです。

▼木の実をも喰[くら]ひ 又は火焔[かゑん]をもくへり
「木の実」は『和漢三才図会』にある「榧[かや]椎[しい]」を食べるという説明、火焔を食べるという箇所は『本草綱目』にある「食火烟」あたりから採られているようです。

(2026.07.16)――
『百物語評判』(巻4)にある「のぶすま」についての文章も、『本草綱目』などの解説内容を引いており「其状[そのかたち]蝙蝠に似て毛生ひて翅[つばさ]も即[すなはち]肉なり 四つの足あれどもみじかく 爪ながくして木の実をも喰らひ 又は火焔をもくへり」――などとあります。比較してみると石燕はコチラの文をそのまま持って来ていると言えそうです。

『和漢三才図会』の解説には「榧椎」のまえに「小鳥」も食べ物として挙げられています。このことからも「絵」として描いている内容に対して、填詞[かきいれ]はあくまで「添えている」という立ち位置であって、填詞の側が主で完璧な内容の説明とは全然なっていないことがよくわかります。


up.2026.07.12

■野衾…和漢三才図会、書言字考節用集




▼空を飛ぶことの出来る生物…「こうもり」や「せきえん」などもおなじく「原禽類」に配列されているぞ。ただし「ふうり」の配列は「獣類」だったりして、やや不統一なところもあるのぢゃ
▼技…「のぶすま」たちの役に立たない点のある技たちはたくさんあって「五技」と称されるのぢゃ。「五技」は『荀子』(勧学)に説かれているもので、飛べるが高いところへはあがれない・木登りすがてっぺんまでは行けない・游げるが谷は渡れない・穴を掘れるが隠れられない・走れるが人のさきへは行けない――の5つがあるぞ。◆『荀子』曰「梧鼠五技而窮」◆『荀子』曰「五技謂 能飛不能上屋 能縁不能窮木 能游不能渡谷 能穴不能掩身 能走不能先人」



▼食べ物…◆『和漢三才図会』(巻42・原禽類)曰「食小鳥 及榧椎等 乃能去其殻皮」
▼つづく「のづち」では、うさぎを食べているまっさいちゅうの様子が描かれてているのぢゃ