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あまのざこ

鳥山石燕百石乳|今昔画図続百鬼

あまのざこ

天逆毎

「あまのざこ」には、大成経の内容に即した画幅の讃に見立てた填詞[かきいれ]が添えられており、「摸捫窩主人」という戯号も用いられています。目録では「あまのじゃこ」という呼び名になっており、表記も「天の邪こ」となっているなど大きな差異がありますが、基本的にはおなじものをさしているということは知れるので、誤りだというよりも、単に違う書き方を採ったダケなのかも知れません。

まえへつぎへ

■天狗の元祖の母と子です

石燕は「すさのお」の胸にたまった「猛気」から生まれたとされる女神の「あまのざこ」と、その子供である「あまのざく」を、母子ふたりの画像として描いています。「あまのざこ」は「てんぐ」たちのはじまりの存在だともされています。

「あまのざこ」は、頭に天冠、肩に天衣をつけた「天女」のようなすがたで描かれていますが、情報要素にもとづいて耳や鼻も大きくデザインされており、口では剣を噛み砕いています。

「あまのざく」は、「あまのざこ」に片手でかかえ込まれており、ヤハリ母親同様に鼻が大きく描かれた男のコのデザインになっています。

画面のしたのほうは雲で埋めつくされており、舞台設定が天上であることがわかります。

■天逆毎姫・天魔雄

「あまのざこ」については、『和漢三才図会』(巻44・山禽類)の「じちょう」(治鳥)の項にいっしょに解説されている「てんぐ」についての説明のなかで採り上げられており、石燕もその内容をほぼまるごと参照しながら、挿絵としては存在していなかった「あまのざこ」のかたちを、想像してデザインしたようです。

『和漢三才図会』では、「天逆毎」は「あまのざこ」と共通しているのですが、「天魔雄」は「あまのざこ」や「あまのさかお」と傍訓がつけられていて一定していません。

『大梅拈華録』(巻5)では、「天魔雄」には「サコヲ」の傍訓があり、「あまのざこお」としていることがわかります。

石燕の填詞[かきいれ]の「天魔雄」には「サク」という傍訓があるので「あまのざく」という訓みになってしまうわけですが、このように比較をしてみると、単なる魯魚なのか、あるいは誤刻なのか、『和漢三才図会』とは情報要素の一致していない部分もあることが知れます。

▼天逆毎
「あまのざこ」は、見ひらきにいっしょに描かれている「かねだま」とは尊いながらも人間たちを振り回しがちな存在たちの一対になっているようです。また、「猛気」という「気」も取り扱われていていますから填詞[かきいれ]のなかでは「気」が共通のことばにもなっています。

▼或書云
ある書にいわく――として書名がぼやかされていますが、これは『和漢三才図会』(巻44・山禽類)の段階から「或書云」という引用のされ方で、石燕はソレもそのまま持って来た様子です。

『和漢三才図会』が参照しているのは『先代旧事本紀大成経』(神祇本紀)で、これは寺社方でのごたごたの結果、偽書であるとして幕府からご禁制になっていた書物でもあるので、書名の記載がはばかられていたことが知られています。

『和漢三才図会』は『先代旧事本紀大成経』にある内容を再構成したもので文章表現はところどころ異なっています。石燕の填詞は『和漢三才図会』のものと共通しているので、ソチラを下敷きにしていることはハッキリします。

▼素盞嗚尊 猛気満胸 吐為一神 人身獣首 鼻高耳長
「すさのお」が胸にたまった「猛気」を吐き出したところ、それがひとつの神になりました。人のような体で獣のような顔、鼻は高く耳の長いおすがたです。

原文では「すさのお」の用字は「服狭雄」となっており、石燕は一般的な漢字表記のほうに変えていることがわかります。

▼雖大力神 懸鼻走千里
ものすごい神様が相手であっても、鼻に引っかけて千里を走らせてしまいます。

「走千里」という部分は、長い鼻を象のように使って、ものすごく遠くまで相手を跳ね飛ばしてしまうことを言っているらしいです。

▼雖強堅刀 噛砕作段々
ものすごく堅い刀が相手だとしても、バリバリと噛み砕いてばらばらにしてしまいます。

▼名天逆毎[あまのざこ]姫
「あまのざこひめ」と名づけられています。

▼服天之逆気 独身而生児
天の「逆気」をからだのなかに服して、独り身のまま子供をお生みになりました。

▼名天魔雄[ざく]神 云々
「あまのざく」の神と名づけられました。

『和漢三才図会』では、この「名天魔雄神」の文にあたる箇所は先述したように「あまのさかお」という訓みをつけていて、名称が一定していません。また石燕は「云々」と文を途中で切り上げてしまって、あとの展開をまったく書いていませんが、このあとに「天魔雄」が「九虚の王」(『先代旧事本紀大成経』では「九張天九間虚王」)の地位につけるように「天逆毎」が神々に迫るはなしなどがつづきます。

▼摸捫窩主人 賛
「ももんがぁ」に対して「摸捫窩」というあて字を使っているのは、ひとつ前の見ひらきでも「ももんじい」の填詞[かきいれ]に見られるものです。

このあとも、この「摸捫窩」の字は『今昔百鬼拾遺』の「はくたく」の絵でも用いられていることから、石燕が「絵」のなかで用いた戯号であると考えられます。


up.2026.07.18

■天逆毎…和漢三才図会




▼大成経…『先代旧事本紀大成経』のこと。幕府からは「或書」など書名をぼやかした引用をされることが多かったようぢゃが、大成経に記載された記紀神話に出て来ない内容たちは、かなり各地の寺社縁起や地誌に影響が見られるようだぞ
▼画幅の讃…高尚な「讃」めかして漢文でしたためられているのも特徴だぞ。のちに「はくたく」でも同様の処理がされているので、意識してのものであるようぢゃ
▼すさのお…いざなぎから生まれた暴れものの神さま
▼天狗…「てんぐ」であるということは『先代旧事本紀大成経』自体に「天狗神」と書かれていることから、結びつけられた設定ぢゃ


▼段々…『観音経』で刀剣をばらばらに壊して、剣難をさけるとする箇所に出て来る形容なので、よく親しまれていたものぢゃ。「刀尋段々壊」や「刀刃段々壊」、「刀剣段々壊」などの文句があるぞ。◆『観音経』曰「念彼観音力 刀尋段々壊」
▼九虚の王…◆『和漢三才図会』(巻44・山禽類)曰「天祖赦使 天魔雄神 王 九虚」