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かねだま

鳥山石燕百石乳|今昔画図続百鬼

かねだま

金霊

「かねだま」には、おかねについての内容も盛り込んだ填詞[かきいれ]が添えられています。

まえへつぎへ

■蔵にうなるほど大判小判ざぁくざく

石燕は、きらきらぴかぴかとひかり輝く「気」と共に大量に土蔵になだれこんでゆく大判・小判・分金・丁銀たちの群れのかたちで「かねだま」を描いています。

点々で埋めつくす描き方の「気」は、画面の右側から放射状に大判小判たちといっしょに描かれています。

白い漆喰[しっくい]で仕上げられている大きな土蔵の屋根には、大きな鬼瓦[おにがわら]もすえられており、その目はキチンと大判小判の群れたちを睥睨しています。土蔵の建っている庭内には梅[うめ]の木も生えていて、花やつぼみがついており、その近くには土蔵とおなじく漆喰で出来た瓦葺の塀があります。

■金霊はしあわせを舞い込む

ひとだま」と似たものとして、火の玉のようなものが空を飛ぶかたちの「かねだま」もかなりの範囲で語られていたことは知れますが、石燕の「絵」には、あまりソチラの要素は反映されていないようです。

山岡元隣『百物語評判』(巻3)には「銭神之事」で金銭についてのはなしが出て来ます。「たそがれ時に薄雲のやうなる物の気[き] 一村[ひとむら]をなして 人家の軒だけをざさめきわたれり 見る人 刀をぬきて切りとむれば 銭多くこぼれ落つる」――といった展開のはなしが提示されていて、それに対して元隣は「世界の銭の精 空中に靡[たなび]く物」であるとしています。

石燕の「かねだま」も「絵」としては空中を「気」と共に飛んでいるデザインで、「銭」よりも高額な貨幣にしているものの、共通した要素が見られます。

▼金霊
「かねだま」は、見ひらきにいっしょに描かれている「あまのざこ」とは尊いながらも人間たちを振り回しがちな存在たちの一対になっているようです。また、「金銀の気」という「気」も取り扱われていていますから填詞[かきいれ]のなかでは「気」が共通のことばにもなっています。

▼金[かね]だまは金気[きんき]也
「金気」は五行のひとつ。「かねだま」が金や銀の精霊であることを示しています。

▼唐詩[とうし]に 不貪夜識金銀気[むさぼらずしてよるきんぎんのきをしる]といへり
『唐詩選』に入っている杜甫[とほ]の「題張氏隠居」という漢詩にある文句を引っぱって来たもの。「金銀の気」という単語を持って来たかったことはよくわかります。

「金銀の気」というのは、山に埋まった金や銀が地中から発する「気」のことですが、 この漢詩に出て来る張氏というひとは遠い山奥に暮らしている俗世から離れたひとで、服部南郭『唐詩選国字解』(巻5)では、この「不貪夜識金銀気」の句は「世をはなれた山をくに静にしていれば金銀の気を知るといふが 張氏は貪らず取る気のない人ゆへ いよいよよく知らるるであらふ」――と、無欲であることの象徴として説明されています。

▼論語[ろんご]にも 富貴在天[ふうきてんにあり]と見えたり
『論語』にある「死生有命 富貴在天」を引いて来たもの。ながいきも、はやじにも、おかねもちになるのも、びんぼうになるのも、天の運の配剤次第のものである――といった内容ですが、コチラもおかねもちであることを示す「富貴」という単語を利かせるために持って来たものだと言えます。

▼人 善事[ぜんじ]をなせば天より福をあたふる事 必然の理[り]也
よいことをしている人間のもとに、天からよいことが舞い込むのは必然の理だと言えるでしょう――ということを石燕は述べており、「絵」で大判小判たちが舞い込んでいる土蔵を、縁起のよいものとして描いていることに、さらに祝言要素を添えています。

巻頭や巻末に縁起のよいものを持って来る構成は、『諸国百物語』(「百物がたりをして富貴になりたる事」)や『太平百物語』(「百物語して立身せし事」)などの構成にも見られるもので、前編にあたる『画図百鬼夜行』での「こだま」や、後編にあたる本作の「ひので」にも確認することが出来ますが、この「かねだま」もそういった構成に沿ったものです。


up.2026.07.18

■金霊




▼分金…四角いかたちの金貨。1分[ぶ]にあたるもので、これが4枚で小判(1両)の価値があるものぢゃ
▼丁銀…ほそながい楕円形の銀貨。形状から「なまこ」とも呼ばれるぞ
▼朱銀…四角いかたちの銀貨。1朱[しゅ]にあたるもので、これは4枚で分金(1分)16枚で小判(1両)の価値があるのぢゃ
▼気…点々で埋めつくす描き方は「おさこうぶり」や「てんじょうなめ」でも使われている表現ぢゃ



▼五行…木火土金水で、天地万物の元素
▼不貪…「むさぼらずして」とは貪欲さを持たずに暮らしていればの意味。無欲の境地にいれば、地中の金や銀が発する「気」を視えるようにもなるといった意味だとされているぞ
▼埋まった金や銀…発掘されずに地中にあるままの金や銀たちのことで、まだ貨幣になるまえの状態のもののはなし