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がんぎこぞう

鳥山石燕百石乳|今昔百鬼拾遺

がんぎこぞう

岸涯小僧・雁木小僧

「がんぎこぞう」には、雁木ということばに関係することばを並べた填詞[かきいれ]が添えられています。目録では「雁木小僧」(厂木小僧)という表記になっており、表記揺れがあります。

まえへつぎへ

■がりがり魚をまるかじり

石燕は水際にとめてある小舟にまたがって、なまずを食べようと大きな口をあけている「がんぎこぞう」を描いています。身体は毛深いカンジにまとめられており、しっぽのようなものもあります。手足には蹼[みずかき]があって「かっぱ」に似たデザインになっています。

なまずの新鮮そうな様子からも、この水辺が川や沼であることは想定出来ます。

雁木[がんぎ]というのはギザギザとしたかたちのことで、この「絵」の土堤にあるような階段も、真横から見たかたちから「がんぎ」と呼ばれます。川の石垣もギザギザの雁木型に描かれていますし、空のうえにも雁木なかたちに並んでいる星が浮かべてあります。

■岸涯・岸崖

「がんぎこぞう」という呼び名がつけられているものの、本文のほうの見出しに用いられている字は「岸涯」[がんがい]であって、「がんぎ」とはスンナリ読める用字ではありません。

つまり、「けらけらおんな」が「倩兮女/けらけら女」という表記だったように 、目録で採られていた「雁木小僧」のほうが、石燕が呼び名に込めた、またはデザイン意図に沿った語義としては近いのでしょう。

『書言字考節用集』(巻2・乾坤門下)には「きし」の漢字として「岸・涯・崖」がそれぞれ挙げられているほか、「涯」は水際のもの、「崖」は山辺のものであるという使い分けを示しています。コレは漢詩文に用いられる「岸涯」と「岸崖」の違いとして示されているもので、この「がんがい」という熟語のうちの「岸涯」を、川に出る設定の妖怪だからということで、石燕があて字として用いたのが「岸涯小僧」という表記だと言えそうです。

■雁木

「がんぎ」ということばは、石燕の「絵」にも描かれている水辺に向かって降りて行く土堤の階段のような、真横から見ると「厂」というかたちが連なったようなギザギザのことを示すことばとして、広く用いられているものです。

お空に浮かんでいる星に、わざわざ星と星のあいだの線が引っぱてあるのも「厂」なかたち、つまり「雁木」なかたちを「絵」のなかにぶち込むためのものだと言えます。「はんごんこう」の九華帳[きゅうかちょう]に描き込まれている星たちにも見られるように、この3つ星なかたちは、大陸の星宿図にはよくあるかたちで、いくつもの星宿にこういうかたちがあります。

3つの星をつないでつくる「星」のかたちは、逆に言えば「星」をあらわす漠然としたありふれたデザインであって、明らかにソレであるとわかる絵になっているとか、特別にコレだと明示されているなどしない限り、ドレであるのかは根拠づけることが難しいとも言えます。

このような点から言っても、「がんぎこぞう」は「絵」全体が「雁木」ということばの持っている色々な要素から組み立てられてデザインされていることが知れます。

▼岸涯小僧・雁木小僧
「がんぎこぞう」は、見ひらきにいっしょに描かれている「こさめぼう」とはとは「山/川」や「精進/殺生」の対比があることは見たダケでわかることですが、ハッキリとした対の要素は見受けられません。

あるいは、この見ひらきの両者は「てんぐかっぱ」の変形としての画像妖怪だ――と見ることも可能そうではありますが、根拠となる部分はとぼしい状況です。

▼岸涯小僧は川辺に居て魚[うを]をとりくらふ
「絵」に描いてあることを、またなぞって言及しています。コレによって「がんぎこぞう」が川にいると設定されている画像妖怪であることは二重に確証が持てるわけです。

こういう書き方をしてくれると、情報要素の確定はしやすいはずなのですが、「絵」と「填詞」で相互にソレを果たしている例がとぼしいという事実は、石燕の妖怪たちを観察する上では、もっと気にされて良い箇所だと思います。

▼その歯の利[と]き事 やすりの如し
ごりごり物を削るために使う「がんぎやすり」という工具のことを語呂あわせで持って来たもの。『和漢三才図会』(巻24・百工具)の「やすり」の項にも「鴈岐鑢」という用字で「がんぎやすり」が載っています。

「歯」以外の部品をギザギザ雁木にしても別に良かったとも言えますが、白楽天の漢詩には「鴈歯小虹橋」(「題小橋前新竹招客」)「鴈歯橋如鋸」(「和三月三十日四十韻」)などをはじめ、「鴈歯・雁歯」という表現が「橋」につけられた階段を表わすことばとしてしばしば用いられており、「歯」である必然性はことばの上で、石燕の脳みそのなかでモトモト発想の前提として存在していたであろうことは、想像出来ます。


up.2026.08.01

■狐火…書言字考節用集




▼がんぎ…雁が空を飛んでいるときの並び方から来ているのぢゃ
▼星宿…3つの星を山型につないだかたちの星は、二十八宿のなかでも觜・胃・婁・危・心があるのぢゃ。普通の星たちだと七夕でも知られる織女や、ほかにも左摂堤・右摂堤・三公・三師・女牀・酒旗・周鼎・北河・南河・帝席・天槍・車騎・騎官・羽林軍をはじめ、まだいくつもあるぞ



▼雁歯…意味するところは雁木と同様ぢゃ。『和名類聚抄』などの頃からコレも字書などに載っている熟語だぞ
▼鴈歯小虹橋…虹橋[こうきょう]は反りの急角度な橋のことで、日本でいうところの太鼓橋[たいこばし]ぢゃ。その橋につけられた階段は、土堤の階段とおなじく真横からみればギザギザなので「雁歯」となるわけだ