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かくれざと

鳥山石燕百石乳|今昔百鬼拾遺

かくれざと

隠里・嘉暮里

「かくれざと」には、填詞[かきいれ]はなく、見ひらきに大きく絵が描かれています。画中の門に懸けられている扁額[へんがく]に「嘉暮里」という嘉字をあてた文字が横書きに書かれていて、画題を表示しています。

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■大黒さまのお屋敷で

石燕は「かくれざと」として、御伽草子や絵草紙などでも親しまれて来た「だいこくてん」(大黒天)やたくさんの「しろねずみ」(白鼠)たちが暮らしている御殿を描いています。

打出の小槌を持ち、おおきな袋によりかかっている「だいこくてん」がいる御殿の奥座敷には、床の間に宝珠と熨斗[のし]の掛軸がかけられて、高級そうなお香が焚かれています。座敷にもお茶やお菓子の他に、宝珠・隠れ蓑・隠れ笠などの宝物が積まれています。

奥の間の先にある庭には松[まつ]や梅[うめ]の木が植わっています。松の木は御殿の外にもたくさん生えているようです。

竹[たけ]の絵の描かれている屏風[びょうぶ]が立てられている部屋には、松竹梅・鶴亀・朱塗りの盃・お酒が汲めども尽きずに出て来る「しょうじょう」(猩々)の甕[かめ]などの細工が乗せられている島台[しまだい]が据えられ、つづいて祝い鯛、反物、万両箱、なまこ銀が並べられています。

■隠里のものたち

「だいこくてん」のおそばには、姥がひとり、次の間には子供たちや裃[かみしも]をつけた家来や小姓たち、水の引かれているお勝手では、祝いのお膳に供するための、お魚や鮑[あわび]の調理を進める料理人たちが見られます。

お日様と波が描かれた衝立[ついたて]の置かれた、御殿の玄関付近でも、裃をつけた家来たちが硯箱[すずりばこ]と帳面を出して、何か相談をしたいますし、画面左手のほうの座敷には黒い羽織を着て使用人たちに何やら指示をしている総髪あたまの人物もおり、描き込まれている「かくれざと」の人間たちは多種多様です。

■ねずみたち

御殿の玄関は、「嘉暮里」という字の書かれた扁額[へんがく]のある山型の大きな門になっており、そこに向かって「しろねずみ」たちは小判をくわえてたくさん群れ集まっています。

御殿の右手には松の木の多くの生えている丘と、大量の米俵[こめだわら]の山があり、地面にも小判や銀貨などがいっぱい散らばっています。

▼隠里
「かくれざと」は、見ひらきをまるごと使った画面で描かれて巻末をいろどっています。

構成の最後に「縁起のよいもの」を置く効果は、お芝居にある「大喜利浄瑠璃」や「押戻し」などの効果と同様なもので、 百鬼夜行のいちばん最初に来る「絵」だった「こだま」や、続百鬼の巻末の「ひので」、徒然袋の巻頭・巻末の「たからぶねたからぶね」と同様に、祝言性を持たせているわけです。


up.2026.08.15

■隠里




▼白鼠…「ねずみのよめいり」を題材にした絵草紙たちも、その「ねずみ」は大黒天のおつかいの白鼠たちを描いているぞ
▼宝珠と熨斗…「たからぶね」の絵での帆にもおなじ画題は描き込まれているのぢゃ
▼鶴亀…鶴は千年、亀は万年の齢を保つとされており、縁起の良い生き物だとされて来ているぞ
▼猩々…「しょうじょう」の持っているとされる、お酒が涌き出て来る酒甕については「かめおさ」も参照するのぢゃ
▼島台…洲浜・洲浜台とも。祝いの席に設けられる造物[つくりもの]で、縁起の良い細工ものを載せるのぢゃ。料理をいっしょに載せることもあるぞ
▼屏風…裏側は「七宝つなぎ」の文様の唐紙になっているぞ。これも縁起の良い模様
▼祝い鯛…向かい合わせに2尾の鯛[たい]を並べたもの。「向い鯛」とも
▼反物…絹・綾・錦などの高価な織物たちが並べられているようぢゃ
▼万両箱…蓋に「万両」の文字がしたためられているぞ。小判などを詰めるもので、頑丈なつくりの木箱ぢゃ
▼なまこ銀…丁銀。海鼠[なまこ]のような細長い楕円型をしていることからの呼び名。「かねだま」の絵にも描かれているぞ
▼米俵…お米を入れる藁[わら]で編んだふくろ。大黒天の像はよく米俵に乗ったすがたでつくられるものぢゃ
▼小判…楕円型の金貨