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じょろうぐも

鳥山石燕百石乳|画図百鬼夜行

じょろうぐも

絡新婦・女郎蜘蛛・花蜘蛛・陰蜘蛛

「じょろうぐも」は、呼び名のみが絵に添えられています。

まえへつぎへ

■糸の先に小蜘蛛がたくさん

石燕は、髪の長い女のすがたに化けた「じょろうぐも」から、小さな小蜘蛛たちがたくさん糸をおしりから引きながら出て来て、それぞれ陰火を吹いている様子を描いています。

本体の「じょろうぐも」は、うしろ向きのすがたで顔の表情などはわかりません。長い髪は垂髪[たれがみ]になっていて、したのほうを元結[もっとい]で結わえている、むかしながらの髪型です。袖[そで]の長い着物は蜘蛛の巣のような模様あるいは蜘蛛の巣そのもののように描写されています。

小蜘蛛たちは、画面内に合計で6体描かれており、それぞれは本体の身体にある蜘蛛の足そのままなかたちの手から1体ずつ発動しています。

■梅の花蜘蛛

画面内には大道具として、中央の幹[みき]がやや魁偉なかたちの梅[うめ]の木だけが描かれています。枝には花が咲いていたり、つぼみが並んでいたりします。

早春の季節が舞台設定としては想定出来ますが、「絵」としては花の咲いた状態を描かない限り「この樹木は梅です」と万人に知らせることは困難でもあるので、季節感などの意図は特別ないのかも知れません。

基本的に石燕は絵の背景にいろいろな種類の植物を、なるべく重ならないように「種類」や「筆法」を変えつつ、大道具配置しているという傾向を感じることは出来ます。これには背景に描き込まれたものも含め、本書が石燕の他の版本とおなじく「絵手本」や「図譜」の要素が濃いことに由来している箇所だと言えます。

■漢語な字と平易な字

石燕は、本文の側では「絡新婦」と漢語での表記を用いていますが、目録の側では「女郎ぐも」と平易な書き方で「じょろうぐも」を記載しています。

『和漢三才図会』(巻52・卵生部)には「絡新婦」と「女郎蜘蛛」の両方が使用されています。いっぽう『書言字考節用集』(巻5・気形門)では「新絡婦」とあって「まだらぐも」として掲載されていますが、この「斑蜘蛛」というのは「じょろうぐも」のことです。

「絡新婦」という用字に特別な意味合いを持たせているわけではなく、「かまいたち」に「窮奇」をあてていたのと同様、単純に字書や書籍で用いられている漢語表記をモトにした用字を採っているに過ぎません。

▼絡新婦
化けた「じょろうぐも」を石燕は描いています。「きつね」や「たぬき」は言うに及ばず、「かわうそ」や「ねこまた」や「大蛇」などのように、説話や百物語などでも「じょろうぐも」が化けて出て来て人間を襲うはなしは多数見られており、基本種な「へんげ」のものとしてコレも描かれていると言えます。

『太平百物語』(1732)では、「陰蜘・陰蛛・女郎蜘」などの用字で「じょろうぐも」が登場しています。高木貞武による挿絵には、糸をおしりから出しながら降りて来ているすがたや、蜘蛛の巣にいる様子が描かれています。このはなしでは「じょろうぐも」は若いお嬢さんに化けていますが、ソチラのすがたは描かれてはいません。

寺島良安『和漢三才図会』(巻52・卵生類)の「絡新婦」の項では、後半に「女郎蜘蛛」の解説があり、そこには青鷺[あおさぎ]五位鷺[ごいさぎ]たちのように闇の夜のなかで「じょろうぐも」たちはぴかぴか光る(光閃閃)ということを説いています。

「じょろうぐも」は毒を持つ、血のある蜘蛛で、普通の蜘蛛には「血がない」ということが、しばしば説かれていたようで、『和漢三才図会』の「じょろうぐも」の文章では「じょろうぐも」に「血がある」という点を「其他蜘蛛 乃無血」と書くことで強調しています。

季語の注釈書として用いられていた四時堂其諺『滑稽雜談』(1713)の「じょろうぐも」(巻8)の項は、「花蜘蛛」という漢語を採った見出しが立てられています。解説には「李氏三書云 草上花蜘蛛 糸最毒 能纏断牛尾 有人遺尿 糸纏其陰 至断爛也 △和に云 女郎蜘 也」――とあって、糸にもかなり強い毒がある、おしっこをかけたりすると陰部に糸がまとわりついて爛[ただ]れるとする内容などが記載されています。


up.2026.06.11

■絡新婦…和漢三才図会・書言字考節用集
■女郎蜘蛛…和漢三才図会・太平百物語
■花蜘蛛…滑稽雜談・本草綱目
■陰蜘蛛…太平百物語




▼垂髪…平安朝のころからのおなごの髪型
▼元結…束ねた髪の毛を結んでおくための細長い白紙
▼梅…最初の上巻は「こだま」の大きな松の木ではじまっていたが、コチラにご祝儀な意味合いがあるのかはあまりわからぬぞ
▼筆法…絵筆での描き方。たとえば樹木の葉っぱも輪郭線をシッカリと引く描き方、筆の点の置き方のみをつかう描き方などでまったく別のものになるのぢゃ
▼字書…其諺がふつうに使用しているように、漢語由来の別の表記には「花蜘蛛」なども「じょろうぐも」の用字には存在しているぞ。◆『詩疏図解』曰「蜘蛛類多し 蝿虎ははいとりぐも 花蜘蛛は女郎くも 壁銭はひらたくも」◆『大全早引節用集』曰「花蜘蛛[くはちちう] 女郎くも」
▼斑蜘蛛…『和漢三才図会』の「絡新婦」の項でも「斑蜘蛛」を異名として挙げているぞ。『本草綱目』の「蜘蛛」の項目では「赤斑者名 絡新婦」とあって、モトモトの「らくしんぷ」は赤いまだら模様のある蜘蛛のことを言っていたぞ。『書言字考節用集』の「まだらぐも」にも「本草 蜘蛛赤斑者」という割注があることから『本草綱目』の「らくしんぷ」を意図していることは明白で、「新絡婦」という字は「絡新婦」の単なる誤刻であると知れるぞ
▼百物語…『宿直草』(巻2)には「じょろうぐも」が正体だったというはなし、また『太平百物語』(巻4)にも屋敷にうじゃうじゃいた「じょろうぐも」が女のすがたに化けて昼寝をしていた夢のなかに出没したはなしがあるぞ
▼五位鷺・青鷺…これらの水禽たちは羽が光ると語られており、ヤハリ暗い夜に陰火を光らせる「へんげ」の仲間だと考えられていたぞ。「あおさぎび」も参照
▼光る…ぴかぴかと光るとはいうものの「蛍」よりは規模の弱い青っぽい「陰火」なのだそうぢゃ。年を経た「じょろうぐも」のものは多少大きくは光るようでもある記述があるが、逆に『和漢三才図会』以外ではあまり見られない情報でもあるぞ。◆『和漢三才図会』(巻52・卵生類)曰「其尻尖両処随動揺 光閃閃 然不如蛍火毎夜鮮明也 老者能生火 闇夜或者微雨中 遇々見之 大可小碗 円而帯微青色」
▼四時堂其諺(1666-1736)京都の僧侶で俳諧にも詳しかった。肖菊翁。
▼花蜘蛛糸最毒…糸にものすごく毒があるというこの記述は『本草綱目』の「草蜘蛛」の集解の文中にある「花蜘蛛」についての引用をそのまま引いて来たものぢゃ。この「花蜘蛛」についての内容は、実は『和漢三才図会』では「じょろうぐも」ではなく「草蜘蛛」(巻52・卵生類)のなかで「草蜘蛛」の性質として混ざって掲載されているぞ
▼女郎蜘…「蜘蛛」とつづけず「蜘」ダケでも「くも」と読ませることは古くから見られるのぢゃ